2025年8月に見たもの(南座とうかぶ、稚魚、研辰、などなど)
音と動きがかみ合うしあわせという点が結構共通していた葉月でした。
稚魚の会歌舞伎会合同公演
2025.8.14〜8.17 浅草公会堂
引窓、棒しばり、勢獅子の三本
引窓
義太夫と所作と台詞が気持ちよく合い連鎖する引窓
義太夫狂言はそうできているのだとわかります
その仕組みが生きるようにやっていることが好もしい
よいものを見ました
母お幸は好蝶。中が若い人であることもわかりつつ老母であることも納得させる感触。
女房お早の春江はせりふに少し拙さがありますが慣れの問題かも
新八の濡髪はよい男で、相撲取りらしくしようと頑張ってないのがいい
蝶也の南与兵衛はたぶんいい人。
新八と蝶也はそこまで体格が違うとは見えませんが、濡髪と南与兵衛が向き合ったときに、大きい濡髪と小さい与兵衛になるように同じ振りでも沈み込む低さを変えていたのが見えて面白かった
棒しばり
次郎冠者:右田六、太郎冠者:音蔵、曽根松兵衛:扇五朗
同期らしいです
ひょろーんと長い「頼うだお方」
次郎冠者はかなりの武闘派、太郎冠者は愛嬌あり。
最後のあたり、主従あんまり関係なさそうな乱戦でした。ありなのかそれ(笑)
勢獅子
皆さんで芸者、鳶、手古舞。
鳶頭鶴吉の音幸が好み
これだけの人数がいても音羽屋らしい顔にフォーカスが合ってしまうんですよ
何が違うのかよくわからないんだが
とりあえず写真を買いました
獅子舞も良かった
極まるたびにもっと拍手が来ても良かったけどなー
あ、そうそう。客席に突然の尾上右近。隣に男寅ちゃん。その隣は関係者の方かな?と思いきや、萬太郎せんせでした。色付きのメガネだった気がする。早いうちから着席されてたのにだいぶわかんなかったー。
歌舞伎座 八月納涼歌舞伎 第三部
納涼。あまりチケット争奪で闘う気になれず、研辰だけ見ておこうかなーということで三部だけ行きました
越後獅子
なんと七人で越後獅子。ぶつ切りでソロの短い部分を踊っては人が入れ替わる形で、晒しの踊りは群舞になります
また七代目三津五郎の、力者との立ち回りの入る型の復活だそう。どうりでかわってます。角兵衛獅子の人なんで絡まれてるん?越後から追っ手が来た?って思ってた。
一人で踊り切った鷹之資のを見たのが最近の私の基準越後獅子なので、この入れ替わり立ち替わりは随分違う印象です。
魚屋宗五郎で、次から次へと役人が出てくるので宗五郎が「吹矢の化け物」みたいと言うところがありますがその言葉が浮かんできました。
吹矢を的に当てると、人物の書いてあるボードが現れて、その絵柄に当たり外れがあるようなものらしい。次々吹けば次々出てくる。
まさにまさに、その感じ。
振付の勘十郎さんが今回の踊りについて、若い人たちが出来ないながらやっているのを見るものと仰っているので、先にそう言われちゃあしょうがないですが、本当にその通りの感想でごめん。
中では青虎が別格で良かった。なぜここに混ぜられてるのか。
若い人では玉太郎がしっかりしていました。
野田版研辰の討たれ
なんつー仇討ちの多い年でしょう
またしても仇討ちをしている染五郎
なんでも木挽町のあだ討ちは、作者が勘三郎の野田版研辰を見て構想した作品なのだそうで(と、本人が書いていた)
だから作品同士が裏表になり、同じ年恰好の染五郎が両方で仇討ちの理不尽に振り回されるのは、心にくい配役と言えるかもしれません
野田版初演は2001年、再演2005年。
芝居自体は大量のセリフの応酬も、大道具と人の動きも
さすがによくできてるなーと思う
きっちり定まって破綻することない堅固さ
義太夫の人が出てきちゃうやつ好き
20年経って役者は殆ど1世代下がっていますが、流行り物を入れ込んだ場面を変えずに残しています
(それも、なんだっけそれ思い出せなーい、あああ、脳のかゆいとこに手が届かないというのが混ざっている)
新しい、当代勘九郎に因むもので気づいたのはいだてんくらい
もう意味がわからなくなっちゃった型を守ることの是非について考えることと
仇討ちの意味について考えることは少し似ている
型とか言われるものだってばからしいんじゃありませんか?って言われてるようにも思えるし、それでも守るんですよっても見える
主役、勘九郎の研辰には一抹の寂しさがあって、ラスト近くのひとひらの紅葉のところなどいいんですよね
でも意気地がなくて意地汚くて上手く人に媚びて生きてるって感じはしないんよな
そんなところが出せる歌舞伎役者(…で元気な人)ってだれだろう
待てば勘九郎がそうなるだろうか
南座 歌舞伎刀剣乱舞
東鑑雪魔縁、舞競花刀剣男士
2025.8.15-8.26 南座
刀剣乱舞2作目の2ヶ月目は博多座と南座の上演。
ひと月めの新橋は千穐楽も行ったのですが、これはまだ最終形ではないのだろうと思われました。
ひと月のうちに一度踏み込んだ芝居にしながら少し安定の形に戻したかなという気がして、この塩梅でいいのかな?ってのと、
膝丸は実朝から本心をちゃんと受け取れたのか
何に心打たれたのかが個人的に未消化で。
実朝を評したことばは「思慮深い」で合ってるんだろうか?どう思慮深いのか。
引っかかる。むっちゃ引っかかる。
こころの兄者に、痛い目にあうのわかってるよね?(ふところが)と言われつつもお団子を与えて懐柔し南座へ。
博多座の千穐楽に雨で新幹線が止まった記憶も新しく、交通機関にもひやひやしつつ参りました。
本当はもう少し後に行きたかったのですが他の予定もあり、ねじ込めたのは南座が開いてから3日目。
「交流の太さをより示すよう実朝と膝丸は近く歩み寄っているが
段取りが減ってしまっており
観客が一気に追随するには和歌ひとつでは難しい」(X(Twitter)から)
膝丸と実朝のキャッチボールが減ってしまい、引っ掛かりはさらに迷路に入った感がありましたが、
劇場の違いが芝居に及ぼすさまざまを感じられたのは面白いものでした。
まず、花道や舞台での移動距離が短いのでそのままだと場面が短くなっちゃう疑惑。全体的にせわしい。
狭いので舞台の上でできてたことが花道や客席通路にはみ出てくる。
舞台の幅が狭く同じ段取りで距離を詰めるとすごく打ち解けてしまう疑惑w
ですが、千穐楽の配信を見た限りでは台詞もゆったりにして間を持たせるようになり、役者さんの距離も工夫されたようでした。よきかな。
南座でひとつ明確に良かったのは楽器の音
粒がはっきりしていて左右のズレもなく気持ちが良かった。
音と拍を合わせた立ち回りの手も生きます。
二十五絃箏の音と羅刹微塵の足捌きがぴたっとシンクロするのが良かったな
で、引っ掛かりのほうですが、千穐楽では
実朝公が、母への葛藤を整理して述べ、「血が流れるのは見とうない」という感情の力点を示し
理想とする姿とそのために考えられた「政策」を明かす機序が
非常によく見えるようになりました
そこまでの深いお考えがと受ける膝丸のセリフがやっとしっくりくるようになった。
これは歌昇さんが無茶苦茶実朝公に向き合ったのに違いない。
(膝丸が唐突に問答を始めてしまうきっかけは再演の時にはなんとかなってほしい。)
そうそう、もうひとつ、三日月宗近の男伊達の踊りが良くなりました。手の内に入った感じ。
振りも変えたのかな、前を覚えてないけど。最後の方のその場で六方のところが力強く多めになったような気がする。
2ヶ月を通じて気にいっている箇所は
・すっぽんから近侍曲で出る宗近殿(南座ではナシ)
・鎌倉山に降る雪の風情を六つの花と褒め表情を和らげる実朝公
そして沈んだ風情になり「わきて言われぬ世の中に」と静かに続く行列
・「このまま我らが盾となって食い止めまする」って奮戦していたご家来が一歩二歩と後ずさって何かにあたり振り向くと敵の大太刀がいる所。これは初めて見たときから、いい描写だなーと思ってました
・夏祭のよさこい節
いい踊り手ですなあ
2作目。構成自体の欠点は依然あると思いつつ愛着が出てきました。
が、もし昼夜通しのような形だったらどうだったでしょうね。見たくありませんか。
だって、なんでいきなり尼御台のとこに入り込んでるかわからないじゃん? ねえ
生誕100年・渡辺宙明音楽祭
2022年に亡くなった宙明先生。
卒寿のコンサートがこのあいだのことのようです。
今回はマジンガーZなどの定番曲よりも少し年代が下るイクサー1や宇宙刑事などの曲が主でした
オリジナル歌手の方の顔ぶれもちょっとだけ若くなりました。だんだんそうなるよねー。
歌い継ぐという名目で歌われた方もありました。
あと、賀川ゆきえさんのアマゾネスやアマゾンキラーの声があったり、伴大輔さんがその場でセリフを言ったりしてくれましたが、拍手にかき消されちゃってた。タイミング難しいですね。
関智一さん企画、主演のヒーローものの話で、頼んでみようみたいなノリでvapの高島さんに連れられてったらすっかりそういう話が出来上がっていてあとは自分が借金をするばかりになってたというのがいちばん面白かったな。宙明さんに自分の特撮で音楽作ってもらって歌えたらオタク的には最高ですわね。
劇伴作曲家のコンサートのシリーズを担当するのはだいたい同じオーケストラなのですが、宙明先生のときの金管は明らかに力入れて練習してるんじゃないかと思います。他でもこのクオリティーがほしいよ。
くるみ割り人形外伝
2025.8.23-8.31 新国立劇場小劇場
再演。作演出 根本宗子。
ひとつの舞台の中にいろんな形式の表現を同居させた音楽劇。
舞台にはクリスマスツリー
歌舞伎の雪
アコーディオンの演奏とバレリーナと歌い手
このアコーディオンが上手い
(歌手 チャラン・ポ・ランタン もも
アコーディオン チャラン・ポ・ランタン 小春
踊り子 山之口理香子)
主役のクララはダブルキャストで、私が見た日は寺田美蘭さん。
二人のおとうさんのうちの1人(いまどき家で着流しの珍しいおとうさん)が鶴松さん。
鶴松さんのもうひと役は「うさぎ」です。
元は赤いうさぎですがなぜか白い。
耳っぽい布も付けてましたが、手獅子を持って踊るときのような動きでうさちゃんを表してました。
もう1人のおとうさんは一色洋平さん
そしてクリスマスケーキほか諸々の役。
クリスマスとはたびたび奪われ、こどもが取り返すものなのだな。ナルニアってそうじゃないっけ。
素直じゃなきゃいけないかのような筋にはちらっと疑問はあるものの、音楽に溢れる上々の作品でした。音と人の動きや声が出合うことの良さが沢山ありました。楽しい。
余談。アソビューでチケット予約しました
「おとな」の「20」番という番号。席がどこになるのかわからない。
当日券の売場でそれ用と思われる束のいちばん上からピャッと券をちぎってくれたので、予約の番号は関係なく来た順?
前に歌舞伎鑑賞教室のときは、名前で取り置きになってたので公演によるのかな。
けっけバレエvol.2~ガニ股の大暴走~
2025.8.28 めぐろパーシモンホール
バレリーナ芸人松浦景子さんがプロのバレリーナたちと作り上げたコメディバレエ公演。大阪と東京で計4公演あるうちの東京の千穐楽。
私、この方のおかげで、すっごくおしゃれだけどガニ股のおねえさんの理由がわかりました。バレエの人だったんだ。
日和って二階のバルコニー席(二階右ですな)にしたんですが、もし花道があったらすごくいい席だったっすねえ笑
お若い方の目立つ客層で満員でした。明らかにお化粧が薄く飾り気がない。服もシンプル。
オタクが行きそうなやつとも歌舞伎とも全然違うテイストです。
私は素人すぎて演目自体のパロディはわかんなかったですが
けっけちゃんが男性役で、男性の技のリフト(男性が女性を持ち上げる)や高く跳ぶ時に、黒衣が出てきて後ろで持ち上げてるやつとか
アイドル(王子様っぽい)に群がるうちわ持ったオタクとかは可笑しかったな
バレエあるあるの先生ネタは大きな舞台では一瞬すぎるかもしれない
バレリーナによるラインダンスは一糸乱れず
バレリーナによる盆踊りは普通に高尚にバレエだった気がします
第拾弐回 三代目枝太郎まつり
横浜にぎわい座 2025.8.30
桂枝太郎さんの自主公演
松也さんがゲストだったもので。(正直)
にぎわい座は枝太郎さんの師匠である桂歌丸さんが二代目館長をなさっていた演芸の拠点。桜木町駅近くの野毛にあります。
この日の落語は歌舞伎にちなんだ演目縛りで
自分は桂文治さんの掛取り断る奴が面白かったな
それと、三宅右矩 三宅近成兄弟による狂言「長光」
これは歌舞伎の太刀盗人の元ネタのひとつだそうです。
盗人の方がシテなのね。
歌舞伎だと田舎者の方がかわいそうになってくる長さですか狂言はちょうどいいあっさりさでした
松也さんはトークゲスト。出囃子が赤胴鈴之助。
ざっくりシルエットの服にやや長くなった髪。結べる程度の長さ。
枝太郎さんと松也さんと三宅さんは旧知の間柄だそうですが、松也さんにドラマの歌丸さん役がきたとき、枝太郎さんが歌丸さんの弟子だとは知らなかったんですと。そんなちょうどいい監修者がいたとは。
雑談
読んだ本 天地明察 冲方丁
今更ではありますがたまたま病院の待合室にあったもので。
映像は見ていません。
他の配役は思いつかないんですが、「えん」だけは、まるるだな、と決めた。
箒を持って叱ったり、これは本当に鯵なのですか?って言いながらご飯食べるの、似合うでしょう?
みた映画
星つなぎのエリオ
帰省したら行きがかり上見ることに。本当は国宝かコレを見ようと言われて、国宝は怖くていまだ見られないのでこれになったのだ。ヘタレでございます。
原題はエリオ(主人公の名前)なんですよ。なんで邦題は意味を加えてしまうんだろう。
ネタバレは避けますけど、おともだちのいもむしみたいな子がかわいい。そして今月見たものの中で唯一泣きました。
明けて、長月。
来年松竹座が閉じるとの報が入ってきました。
23年前、何度も幕見して東京での内容に満足がゆかず、仕上がりが見たくて同じ演目のかかる次月の公演に足を伸ばしたのがたしか私の初松竹座。松緑襲名の蘭平でした。この夏、行く末が気になって南座遠征をしたときにそれを思い出していました。のに。
急に有無を言わさずなくなるの、BS松竹東急も同じでしたね。
我々は蚊帳の外なのだ。
買わないことでNoを言えば本体が滅びてしまいますし、せいぜい盛り立てるしかないのがつらいところです。
そうですね、意見くらいは届けてもよいな。