猿若祭二月大歌舞伎 2025.2 歌舞伎座 よる

猿若祭二月大歌舞伎 2025.2 歌舞伎座 よる

お正月気張りすぎたし、三月の忠臣蔵も押さえなければならず、あいだの二月は我慢我慢。
ですが、阿古屋をちゃんと見たことがなかったので観ておかなきゃいけないかなと思って夜だけ歌舞伎座へ。三階B下手側。すっぽんが見えるか見えないかくらいなんだね。
所作事があるのでイヤホンガイドあった方がいいかな?と迷いましたがなしで挑戦。

阿古屋

阿古屋/玉三郎、重忠/菊之助、岩永/種之助、榛沢/菊市郎

舞台中央での阿古屋の綺麗な極まりが、ああ写真で見るやつだーってなりました。
しかし音の方は正直演奏でシロクロがつくものかはよくわかりません。乱れがないのか?それはもう菊之助の重忠を信じるしかなく。
その重忠も演奏中はぴくりともしないんですよねえ。
三味線の所で岩永がウトウトして、胡弓では弾き真似をしているのには共感を覚えます…すみません寝ました。
胡弓はうたうように奏でられる楽器で、節も中華っぽくて、自分が習うならこれがいいな。

岩永は人形振りで、黒い自分の足の上にもう一組卵色の足袋を履いた足があって浮いて見えたり、瞼の上に大きな目を描いてたりしています。遠目だと本当の目が開いてるのか閉じてるのかわからない。眉毛も動く仕掛け。
芝居するときも勿論人形のようだけど、座っているときにも腕を腿につけずに浮かし、指は玉子をホールドするようにして静止している。お雛様の手のような。そのままずっといるの驚異的。ガラスの仮面かな。
出てきたときだけちょっと人間でした。
武田奴はやたら沢山出てきたと思ったら双眼鏡で顔を確認してる間にすぐいなくなっちゃった。何だったのか??
阿古屋も少し人形のように動くところがあり、もしかして重忠(と家来たち)だけが人間側で阿古屋も半分あちら側なのかもしれない。
昔のNHK人形劇で一人だけヒトがいて人形と話してるやつを思い出しました。
でもお人形岩永は1人で煽ってて話聞いてもらえなくてちょっと可哀想。そうね。石切梶原のときも菊之助俣野のこと眼中になかったわね。

江島生島

2本連続で寝てしまうかと危惧しましたが、意外と大丈夫でした
これは歌のことばがよく聞こえたのが大きい
どうも自分は筋がわかるやつが好みらしい

始まりは暗闇にぼうっと上手の長唄の方々が見え、
やがて船の上の江島(七之助)と生島(菊之助)が浮かびます。
美しい二人のときは僅かで、江島はすうっとすっぽんに消えてしまう
失意に倒れ伏す生島
暗転が解けると衣裳が変わっており、あれは夢か幻であったとわかる
先月の二人椀久と似た展開ですが
本演目は二人よりもその後を描くのが主眼のようです
配流先の島へ江戸から商人がやってくる。
それを捕まえて生島はわざおぎであった頃の話を聞かせているらしい。
下に居やと無理無理商人を座らせる菊之助生島。
ええぇ、何この人…(困惑)
かつて何者かであった話者と行き合わせて話を聞く者
能のシチュエーションのようでもある
商人は萬太郎。菊之助が顔をしっかり目に描いて、美男につくっている(菊五郎によーにとる)のに対し、
萬太郎は顔をあまり描かず素の表情が見えます。実に迷惑そうな顔が似合っていてよいです。
後半では七之助の海女(江島に似ているということであろう)が仲間の海女たちを引き連れてきます
海女たちを目当てに商人が取り出した衣裳の取り合いになったりしつつ、商人と海女達のやりとりやら、江島に見立てられた海女の踊りやらが上手下手で行われるので意識が散らかります
情報量が多いってやつやね
舞台が狭ければ一体に見えるのかも

海女たちは気のふれた生島のことを知っていてからかっていたのでしょうか、やがてきゃらきゃらといなくなってしまい
着物と共に彷徨うように花道を入る生島と、見送るしかない商人
この生島の昔と今を理解できるのは江戸から来た彼だけなのだよね
切なく彼方を見る彼を舞台に残して幕が下ります
生島の哀れが主になるべきなのかもしれませんが
着物返して〜な気分を含めずーっと商人を追ってしまいました

文七元結

勘九郎の長兵衛、七之助のお兼、鶴松の文七、勘太郎のお久、萬壽の角海老女将

兄弟(夫婦)で笑いをとりにいく所が最高潮になるのは狙ってるのか、今月のお客さんが勝手にそうなるのか。

勘九郎の長兵衛は言葉が多く、空白を埋めるように喋っていて、それがテンポを削ぐ気がするのでもうちょい削ってもよいかな。
藤助さんとお兼さんと3人での掛け合いが小気味よくなるといいなあ。

角海老で肩叩きをするお豆ちゃんは秀之介。小さいぃ。はじめてのおつかいを見てるみたいな気分だよ。ちゃんとしおおせて安堵。お正月の毛谷村ができたんだものこのくらいはお茶の子さいさいか。
あと、音羽屋で、もぉずぅーーっとおんなじ花魁の役でいる方(梅之助さん?)が、中村屋の角海老にもいてくれてなんか嬉しい

お久が長兵衛を諭すところは笑いがきますね
誰がやっても微妙な台詞だけど笑いどころかい?
でも笑う人は笑う所と信じて笑ってるのだろうな。
(たぶん勘三郎さんは好きなように見て好きなように笑いなさいよって言うと思うけども、だ)
勘太郎くんは座っているときあまり大きさを見せないのが良いです。立つと、あれ、こんなに大きい?ってなる。台詞はいつものお久のねっとりしたあの抑揚がないですが、お久は何が正解かよくわからない。

そのお久が作ってくれた五十両の返済期限は来年の大晦日です。
ここ、音羽屋だと来年の3月です。無茶苦茶短いの。
来年の大晦日だって短いですが3月に比べると長く思えちゃう。
萬壽の女将さんもなんか今回優しいぞ、という感じ。
なのでお久の危機には猶予がある気がしてしまう。
そのかわり、長兵衛が文七を助けるか否かに直面した時、他の背景の入る余地が出てくるのかもしれない。
今回のやり方だとそれが何かまでは見えないけど

川端で文七がところ名前を語っているときは長兵衛は文七の草履を回収に行っていてあまり聞いてなく、一方長兵衛はどこの誰かをはっきり語って文七はそれを聞いている。その辺りの辻褄はしっかり合わせています。

鶴松の文七は正統派でむしろ菊之助か松緑と合いそう。
いいんでございますよと再び身投げに向かう所は役者により違う色が出ますが、今回は、あきらめ切ってやや人生投げてます…ってしぬ気なんでしたね
走り去る長兵衛が残したのがお金と分かって親方…とおしいただく所はさすがに泣かせます

が、この芝居でいちばんの拍手がきたのはここではなくてですね、
翌朝の夫婦喧嘩の七之助お兼の「言ってごらん!」×4でした
ちょっと時代がかったりしてね。
こんなに拍手のくるお兼は初めてだな
この人にやったんだ!も沸いてたけど言ってごらん!の勝ちだった

大家さんは市蔵、和泉屋は芝翫。
芝翫がいいです。いかにも大店の旦那。先月声の調子が悪くて残念だったので、これでちょっとほっとしました。
最後の最後にちょろっと鳶頭で松緑が出てきます
お久を見まもる目が優しくて、あれ、松緑こういう顔する人だったかなあ、なんて思いました。

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