12月に見たもの(2024.12 歌舞伎座 新橋演舞場)

最終更新日

今月、タブロイドの記事で、演舞場VS歌舞伎座は朧圧勝的な見出しを見ました。
ぇぇ?ってなって本文を読むと、実はそうは書いてなくて「21世紀になっての歌舞伎の新作のなかでは、最も成功している。」と書いてあります。
これはタイトルの付け方がよくないな。本文に21世紀と書いてある意図は「あらしのよるに」とは勝負するけど「天守物語」とはそもそも勝負しないということじゃないかな。

21世紀になっての歌舞伎の新作の母集団はなかなか沢山あって、2001年からなので(ちなみに歌舞伎じゃない新感線のアテルイが2002年)、十二夜あたりからそうだし、ワンピースもナウシカもだし、当然ながらFFや刀剣なんかもはいります。去年今年やった荒川十太夫みたいなのもある。
その24年間あまたある新作の中で最も成功しているとは、釣り針が大きい。

そもそも朧は新作歌舞伎かどうか微妙だと思っています。
歌舞伎役者の身体を通しているけど新感線であろうとするベクトルの方が断然強い。
似た物差しで比べられるものはNEXT阿弖流為しかなく、では阿弖流為より朧が成功していましたか?というと、どうでしょう?成功ってなに?と思う。

天守物語 (歌舞伎座第三部)

演舞場と歌舞伎座の話に戻しますと
世界のでき具合では天守物語が圧勝でした、私の中では。

昨年も見たのですけど
隙間なく組み上げればまだこんなに良くなりますよとお手本を見せてくれたようでした。

始まりの緞帳はここ最近ではいちばん心動いたマジックでした
暗い中に大きな丸い月が正面に見え、三日月となる
ほんの僅かの間に緞帳が春秋に変わったのも、月だけを使うのも、思いもよらないことで驚きがありました。ざーっというシンセサイザーの音も不思議な雰囲気に寄与。

役者が出ているところについては、前半の、主に言葉を聞いている場面の感触が朗読を聴いているようで心地よかった
耳で聞く完成度が高い
こういうものか、天守物語は

侍女たちのアンサンブルが良いのでしょうか
女童は少し大きめの子達です
このくらいの歳になると、普通女子は歌舞伎の舞台に上がりませんが、性別が未分化な子役ではなく「少女」が必要だったのでしょうね。
獅童は前回朱の盤坊で、今回桃六ですが、これも今年の方がよかったです
…というか男女蔵の朱の盤坊には、なんだかわからん台詞回しを納得させるたたずまいがあり、それが獅童より合っている
獅童の桃六は個性を抑え穏やかに話していて案外合うと思いました。
図書之助を演ずる團子は塗り潰したような張りのある声で、音量はもう少し押さえた方がよいけれど、身体の中にみっしり秘めた勢いがあるのを制御しているような若者だと感じます
昨年可愛らしい亀姫だった玉三郎が富姫、逆に富姫だった七之助が亀姫。
最近の七之助は妖気の方向性が可愛らしい妹分とは違うなと思う。どちらかと言えば富姫が合っていたかな。しかし玉三郎が富姫に戻ってしまえば追随を許すわけもない。
ベテランを見るときには時々あることですが、両方玉三郎で見たい、になりますね。

歌舞伎NEXT 朧の森に棲む鬼(新橋演舞場)

かつて劇団☆新感線で染五郎だった頃の幸四郎が主演した舞台を歌舞伎NEXTに仕立てたものです。
もし幸四郎(前染五郎)だけの再演であれば、朧の森に棲む鬼という戯曲がこういう性格のものなのだ、彼にしかできないのだ、と定まってしまったかもしれない所へ、松也が違う身体と声と心を持ち込んで、1人替わる(役交替なので2役が替わるのだけど)だけで物語性が全く変わるのを体現していました。
他の役者が演じるのを通じて、誰でもこうではなく幸四郎だからあのライになるのだという納得が得られたのは先に書いた天守物語と似ていますが、違う形の王の可能性を見出した収穫はあったのではないか。

幸四郎は最初から最後までライ「様」。
昔から思ってますが幸四郎はやっぱり新感線のほうがかっこいい。熱が半端でなく、没入させられます。
一方、松也には、やがて倒れる者の滅びの予感があります。
光秀や三成や佐々木小次郎。そっち側だと思う。
ライきらいだけど、何回か見てたら単純にカッコいいなと思えるようになった場面もあって、こうなってからがいいのかもなあって思いました。
松也ライと右近キンタとのコンビには菊五郎劇団の風があり、それはうれしかった。楽しそうなこのままの二人も見ていたかった。
キンタ、大ぶりの見得を一手に引き受けて真面目にこなしとったな。
マダレ(猿弥)の、サダミツを巻き込んでとんでもないショーを始める確かな実力が良かった。安心できる。
あと、シュテン役、現染五郎19歳で一族の長の貫禄がありどうなってるのかと。
シキブ新悟、ツナ時蔵のねじれた愛憎と見たことない激情。

…と。さんざんリピートしておいて言いますが
歌舞伎NEXTの秘めていた可能性はもっとなかったかな?とも思ってしまう。
こっちなのかなあNEXT。次なる歌舞伎ではなくて、違う絵の具で描いた新感線って感じだったよね。
阿弖流為のときはそうであっても歌舞伎がまぶした不思議なキラキラがあった気がしたなあ。
こちらが慣れてしまったのだろうか。

あらしのよるに(歌舞伎座第一部)

5回目の上演になるらしいです。狼がぶの配役は獅童のまま、山羊のめいは菊之助初役。
獅童と菊之助のコンビ性としては先日の上州土産より良かったと思う。
ゆーていちばん感動したのは國矢改め精四郎の口上でしたが、
ほんまに良かったなあ。

今回は最初の場でこども時代のめいとがぶとそれぞれの親のいきさつが上演されています。
これは獅童の家のお子様を出すためでしょうが、あとは菊之助のカラーですかね。説明するの好きよね。
この話はあとから実は…って方が数奇で面白い気がするけど好みの問題ですかね。
狂言作者的な人が出てくるのも、誰?ってなる。
獅童ががぶの父親を演じていて、それがよかったです。今月、じじぃ2役あるのね。

珍しく松緑が新作系に付き合っています。
発端で耳のあった頃のぎろ(松緑)が出てくるけど歩き方がおかしい。
なんであんななんw (ジャックスパロウ?)
後々もぎろの部屋の場面だけ普通、外に出ると蛇行。
狼さん達は、今月は上方は顔見世の月だし、朧に出ている民もそこそこいるので、江戸っぽい狼でした。
アクロバットの民も結構いた。
見たかった萬次郎おばばとしっぽの生えてくるトカゲが見られて良かった

菊之助めいは、こんなことなら食べられていれば良かったって言ってましたね
逢わなければと食われていればではちょっとニュアンスが変わりますよね
菊之助だとそうか。松也だとやっぱり逢わなければのほうが合うような気がする。

食いてえ、ともだち、の太夫2人のせめぎ合いは上階からだと分かりづらかったです
ここ聞こえると面白いはずなのに。
朧の森もそうだけど、浄瑠璃にマイクが付くときは割れたり吸い込まれたりせずにちゃんと聞こえるようになってほしい。
椅子にスピーカーでもつける?

鷺娘は朧との兼ね合いで見られず。
舞鶴雪月花はごめんなさい、うとうとするうちに勘九郎がいたりいなかったりしました
雪だるまかわいそうで好き
幕切れでは溶けた姿だけになっていて役者がいないのに客が凄く拍手してました
諸行無常

良いお年をお迎えください

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