とうかぶの座組のこと
新作歌舞伎 刀剣乱舞 月刀剣縁桐
(2023.7 新橋演舞場にて上演予定)
最初に出演者情報が流れてきたときには、花形歌舞伎的な扱いなのかと思いました。
やがてメインキャストが載った仮チラシが出たとき、おや、と思いました。
追加の出演者が発表になるたびに、これはわざわざ人選しているのだなという確信になりました。
今回のメインキャストは、初舞台から系図に載り坊ちゃんと呼ばれやがては父と同じ名跡を目指すような生い立ち「ではなかった」人が殆どです。
30年余り前に生まれ、世紀を跨いだ21世紀歌舞伎組は、梨園の外から役者になっても大きな舞台に立てることを証明した集団でした。
しかしそれは少なからず先代猿之助さんの力に牽引されていたことを今となっては認めざるをえません。
現在一般家庭から有名になる方があるとはいえ、それは部屋子や養子に入った方が多く(勿論、素質を見抜かれて養子になるわけですが)、それ以外の役者さんが都度の舞台で中央に出るようなことができるのかというと、そこはまだまだ。
普段の歌舞伎の中に道を拓くことが更に必要なのだと思います
例えば弟子からの抜擢が驚かれず、実力ついてきたしそろそろかな?と待てる日常が訪れたなら、と思う。
松也さんはこれからは昔ながらのやり方でなく、チームで歌舞伎を作ることになるのかもしれないと言っていました。
家を越えた座組による都度の顔合わせ。
名門の生まれでなくても真ん中に立てる。
今回はそこにつながるかもしれない一つの試みだと思います。
役者さんたち
三日月宗近
尾上松也
松也さんのお父さんである松助さんはテレビ黎明期からの子役。歌舞伎役者で二代目松緑のお弟子さん。お母さんは元新派女優。
祖父は新派や映画の俳優さん。祖母は芸妓さんでレコードも吹き込んでます。
芸事と縁あるものの歌舞伎の家ではなく、所謂御曹司と呼ばれる立場ではない。
父の松助さんが若くして亡くなったとき松也さんは二十歳。
小さい頃から菊五郎劇団の子役で、若い頃はかわいい女形。そのままなら劇団の名脇役という方向性だったかもしれない。
しかし松也さん本人が歌舞伎で真ん中に立てる立場を掴むために外での実績づくりに活路を見出そうとしたことは本人がさまざまな場所で語っているとおりです。
数年前テレビで浅草歌舞伎を扱ったドキュメンタリーでは、
三十代前半の松也さんは既に年長格でしたが皆と同じ大部屋で
菊之助さん(ぼっちゃんですね)が観にくると聴いて緊張していた様子を覚えています。
その辺が歌舞伎の仕組みたる所。
先日松也さんが歌舞伎座の團菊祭のチラシの上段に幹部に混じって拵えの写真で載ったことはちょっと話題になるほどでした。
その松也さんが座頭で、集まる役者が様々な成り立ちをもつ人達だというのがこの作品の配役のミソであろうと思います。
歌舞伎当たり役は…シーモア? めい? ユパ様…(と思ってしまうくらい古典は模索中な気がする)
関係ないけど、題字、松也Pのロゴ書いてくれたひとだね。人脈だいじ。
足利義輝
小狐丸
尾上右近
清元延寿太夫さんのご子息。延寿太夫さんも若い頃は俳優をされていました。母方の祖父が俳優の鶴田浩二さん。
右近さんも菊五郎劇団の子役で、研佑っ、と大向こうがかかるような名子役でした。
六代目菊五郎の曾孫にあたります。
しかし、歌舞伎の家ではない。
清元も歌舞伎もやらせてほしいという、本人の希望で役者もやっているそうです。
菊五郎さんが預かっているという形ですかね
所作や台詞のリズムがやや独特で不思議だと思う。※個人の感想です
ワンピースでは猿之助さんの代役で主演をつとめられました。
この役は一役ではなく、立役女形の両方を演じる必要があり、つまりそれができるようなタイプの役者さん。
刀剣乱舞が終わるとすぐに自主公演やおにいさんと一緒の清元の催しも控えてます
松永久直
同田貫正国
中村鷹之資
たかのすけとよみます。
お父さんの富十郎さんが亡くなったのは鷹之資さんが11歳のとき。
父親がいないということは、歌舞伎に於いては最大の後ろ盾と師匠を失うことで非常なハンディです。険しい道と誰もが思ったはず。
それだけに大きな舞台で見るたびに、この人を育て表に出したいという周りの人の思いが感じられます
踊りはみっちり仕込まれて上手いだろうと想像していましたが
陰陽師での殺陣の素早さには驚きました
義輝妹紅梅姫
髭切
中村莟玉
かんぎょくと読みます。幼少の頃から歌舞伎が大好きで一般家庭から梅玉さんの部屋子となり、先ごろ養子になられた方。愛称は、まるる。最近名は体を表…なんでもねえ
NARUTOではサクラ役。女形というより女の子だった。
今回は男女二役となります。
部屋子というのは、御曹司と鏡を並べて教えを受ける特別なお弟子さんですが、養子となると表に出る機会が増えるのだそう。
NHKラジオの邦楽番組パーソナリティを務めています。
松也、右近もこの経験者。
膝丸
上村吉太朗
片岡我當さんの部屋子。一般家庭出身で、愛之助さん以来28年ぶりの上方の部屋子だったのだそうで上方歌舞伎期待の若手。
女形も立役もこなし、團十郎さんや菊之助さんの企画した歌舞伎にも出演、発見されつつあります。FFXでリュック役。
不思議に思ってたのですがはじめに師匠上村吉弥さんの元で初舞台の際に名乗ったお名前をそのまま使われているので上村のままだそうです
鷹之資さんより若いので最年少かな
小烏丸
河合雪之丞
国立劇場研修生の出身
先代猿之助さんの部屋子で21世紀歌舞伎組の女形でした
ワンピース歌舞伎(ナミ役)の頃はまだ春猿として歌舞伎におられましたがほどなく新派へ
確かに近現代の「女性」の似合う方
(新派(しんぱ)は、明治の頃、歌舞伎に対する新しい演劇についた名前で、今、集団としては劇団新派があります。
大正から昭和前期あたりを舞台とする現代劇をレパートリーとしておりいまから見れば殆ど時代劇の域に達しているような気がしますが、歌舞伎とは違うお芝居です)
異界の翁
澤村國矢
子役の頃に澤村藤十郎さんから声をかけられ入門
古風な風貌と見えるのですが、獅童さんの超歌舞伎やNARUTO、FFX、松也さんの自主公演「挑む」などに関わられ、新作と言えば必ずいるような気がするひと。
超歌舞伎のリミテッドバージョンでは主役を勤められました
異界の嫗
市川蔦之助
ご両親は踊りの師匠
大きくなってから市川左團次さんに入門された方。
年齢性別を問わずなんでもこなせるイメージ。
語りの才能を菊之助さんに見つかったっぽく、FFXでは召喚獣の傍らブリッツボールの実況(毎日実況で)、團菊祭では黙阿弥の弟子という架空の役で前説にあたる口上を務められていました。
山口左司馬
大谷龍生
大谷桂三さんのご子息。松也さんの従兄弟。
未知数です。どきどき。
弾正奥方柵
中村歌女之丞
国立劇場の第二期研修生。国立劇場の研修生出身で初めて幹部昇進した方。中村歌右衛門さん門下
https://www.ntj.jac.go.jp/sp/topics/kokuritsu/2021/758.html
しっかりした女性の役どころが似合います
善法寺春清
大谷桂三
先代の松也さんです。いまの松也さんの叔父。
松也さんのお父さんの子役時代が緑也、弟が松也。二人合わせて松緑になるお名前。
松也であった大谷桂三さんはのちに守田勘弥さんの芸養子となったのち一門を離れ今の名前になりましたが、しばらく舞台から離れており、また復帰されて今に至る。
将来を嘱望されながら故あってという方。
松助さんが襲名するときにこどもも一緒にお披露目することになり、名前をどうするか会社に相談した所、弟に聞いてみろと言われ、桂三さんが承諾したので、今の松也さんが誕生したことが、桂三さんのブログに書かれています
松永弾正
中村梅玉
昭和の名女形中村歌右衛門さんの養子。
中村魁春さんは実弟。兄弟で養子です。
あまりがんがん前に出ないちょっと控えめな印象のある兄弟でした。
しかし、先輩幹部が鬼籍に入り、自然と出番が増えて忙しそうに見えます。
兄の梅玉さんは見るからにまじめで品の良い立役で、今回の拵えのような武家や実直な役はしっくり。
先頃人間国宝になりました。
NARUTOの南座公演では、マダラ役。
新作の役ばかりを挙げてしまいましたが、正直、私の場合、古典だと観に行く家が偏っています。安いもんではないので、好きな決まった一門の役者さんを観ることが多くなり、また昔ほど、大顔合わせの機会もなくなって、
そうすると若い役者さんをしっかり拝見するのは新作でということが多いです。(あと、浅草ね)
役の個性がそれぞれ印象に残るのも新作ですね
別に新作マニアとかではなく、好きなのは世話物です。やがてはそこであの時の役者さんを見る、というのも楽しみなものです。
よい舞台、良い門出になりますように