だんまりと坊主の踊り(2023.5前進座&團菊祭)

だんまりと坊主の踊りを連日で見てしまいました
1日めは、国立劇場で前進座 魚屋宗五郎の奥庭弁天堂の場と、「風薫隼町賑」ー舞踊かっぽれ。
2日めは、歌舞伎座團菊祭 宮島のだんまりと、達陀。
そんなつもりは全くなかったのにこの符合。

前進座五月国立劇場公演「魚屋宗五郎」「風薫隼町賑」舞踊かっぽれ
2023年 5月9日(火)~17日(水)
国立劇場大劇場
観劇日2023.5.12

團菊祭五月大歌舞伎
2023年5月2日(火)~27日(土)
歌舞伎座
観劇日2023.5.13昼夜,15夜,20夜

演目と配役は下のほうに。
文中敬称略。

だんまりのほう

魚屋宗五郎の奥庭の場面は、ふつう見取りで上演される宗五郎の家よりも前の場面で、宗五郎の妹のお蔦があらぬ疑いを受ける原因となる所。
一度見たことがありますが、上演記録を見たら、私が見られた期間では(前進座を除くと)国立劇場の当代松緑の通しと、歌舞伎座休み期間の幸四郎(先代)だけで、ということは松緑を見たんだろうな。
幕切れ近くで、灯籠が消えて「真の闇」となり、だんまりの様式になりますが、ただ様式を引き写したのではなく、
真っ暗の中、偽証の拠り所になる解かれた帯の取り合い(旗の取り合いの図式)にも、お蔦を捕らえたい典蔵(ワルモノ)と、逃げるお蔦、護る紋三郎(イイモン)の蛇籠の仕草にも3人それぞれ必死の意味が見て取れるので、ああ、だんまりの所作は例えばこういう場面を様式化したものだったのかと、初めて納得できた思いでした。
この幕は若手三人での上演とのこと。
お蔦役の有之祐は清楚なお嬢さんで、前進座は女優さんもいるし、この方はどちら???と、先月のFFX歌舞伎で見かけた感想みたいな思いでじろじろ見てしまいましたよ。
(あ、この日は格安チケのある日で、最前列センターで鑑賞。お得。)
もし若い女性であのくらい歌舞伎に溶け込める方がいらしたら逆に凄い技術だと思ったので、女形で、さもありなんと。
(逆に、超歌舞伎の花びら屋さんたちには、
こんな桁違いびゅーちふる女形さん達を今まで見過ごしてたとは私の目はどんな節穴?って思ったら女性で、でーすーよーねー、ってなった)
あと、海之介はウォッチしてゆきたい。

対して、宮島のだんまり
傾城六方の出る演目で、当代雀右衛門の「実は男」の役は他に見たことがなかったかも。雀右衛門的にはいつもかわいい、か、かわいそうが先に立つのでかっこいいという感想になることが新鮮。前に萬次郎で見たかな。
だんまりの部分は人が多すぎてごちゃごちゃします。調べたらもっと人数出てるときもあるけど今回は10人。各々2人ずつくらいでステージ各所で絡んでる形。
最初の白旗の退場後、傾城を挟んで口上を述べる広元、重忠が源氏。そもそもなんで今回は白旗なの?源氏から盗んできちゃったの?それで2人が白旗の探索にでもきたんだろうか。
先の3名以外は殆どが宮島でお祝いをやっていたらしい平家御一門様。
お祝いなのに渡海屋のときの幽霊(の振り)の姿の相模五郎おかし。幽霊の手の形してかわいい。御主殿おたきは別の芝居の人物。浪越采女は謎。
やがて一枚の白旗を全員にテープカットみたいに持ってもらうのに途中をつまんで1人ずつ順々に役者に渡していく。それでもまだ余る長い長い白旗。
後にまたひとりひとりから回収。ルーティンワークっぽかった。
それを傾城が独り占めにしてドロンで逃亡する所と、それぞれの正体が見顕しになるところ。そして花道は傾城六方の引込み。そこが物語の動くところだけどそれ以上のこともない。
珍しく意味のあるだんまりを見た後なので、意味がほしくなり、どういう話なんだよ?とネットを彷徨っていたら、
地歌舞伎での動画が上がっていて、そこでは、傾城が引っ込んだら蝦蟇が出てきたり、
清盛がお堂から出てくるいきさつとか、そもそも何がきっかけで真っ暗になってしまったのかとか、だんまりの前に少しお芝居があるん。
舞踊ではそれもだんまりの中で表すんですね。
髪結新三より、こっちに解説がいる気がするけど。
(注:今月の歌舞伎座の髪結新三は、幕が開く前にちょっと解説が入ります。)
種之助の祇王の身顕し後の風情が鯔背でよいです。どんな筋があるのか見てみたいもの。

坊主の踊り

さて、坊主の踊りでございます。
前進座。今シーズンは国立劇場建て替え前の最後の定期公演。「風薫隼町賑」と題して国立劇場を描いた背景の前に一座が揃いの装束で登場。立役さんは全員所化の鬘で。
「やっこさんだよー」の掛け声から始まる「奴さん」の歌と同様の「○○だよー」の掛け声を交えながら端唄に合わせたペアの踊りが次々と続きます。お座敷や寄席でかかる踊りの組み合わせらしいです。
女優さんたちの踊る、鴨八百羽!の品川甚句は歌詞も楽しげ。
お半長右衛門(上方のお芝居で、私は見たことないです)の寸劇もあり、おかしみや役者さんそれぞれの個性が詰まったひと幕でした。
(私の見た日のゲストには声優の置鮎さんがいらして、女形の拵えで出てきました。びっくり。)
国立劇場大劇場での公演40回に皆勤という役者さんもいらして、お名残惜しいだろうなあ。

一方の達陀は、極めてストイックな世界。松明を持つ人とお水取りのお水を運ぶ人と青衣の女人(しょうえのにょにん)以外はお坊さんです。
初めて見たのは御園座、菊五郎のとき。
「青衣の女人」と唱える声が耳に残っています。
その後もう一度見ました。歌舞伎座のお休み期間で、日生劇場での上演。劇場の独特の作りと合わさって二度とのぞめないだろうという雰囲気でした。
今回は僧集慶の松緑は同じで13年を経た上演です。
堂童子も前回と同じ坂東亀蔵(前名亀寿)。(実はこれを楽しみにしていたんだー。)
群舞は大所帯で歌舞伎座の舞台を埋め尽くし、菊五郎劇団の踊れる人みんな連れてきましたみたいなことになるので、あの人は今度もいる。この人は退いたかと時の流れを感じざるを得ません。
役者の個性を出さずシステマチックに見えることを狙っていると知りつつ、つい顔を見てしまうのがお客の業(ごう)ですわな。
そんな中、橘太郎の姿が見えて、うぉぉとなる。すごくない?1974年の上演に前名の坂東うさぎの名前があります。13歳。以来ほぼ毎回出ている。
現、尾上右近である研佑くんも12の歳から出演しており、これは期待できる(なにがw)。

勤行の様子の合間に挟まれる青衣の女人と僧集慶の物語がもうひとつの軸であり、若き集慶と若狭との彩りを交えた優雅な踊りと、不浄を焼き、洗い流す、火と水の力強い踊りの対照。
ただひとり集慶が断ち切り難い煩悩を振り払おうと苦しむさまは、いままで見た中でもいちばん印象的でした。
青衣の女人の袖が元禄袖で珍しい。昔のことという意味かしら。

この演目では上手(右)下手(左)の両方に黒御簾があり、上手は幻想、下手は現実の勤行の音楽が演奏されています。
明かりが落ちて真っ暗なので黒御簾の中だけがぼぅっと青く光って人の姿がうかび、ややホラー。幕の開く前に、下手からティンパニのチューニングのような太鼓の音がしたり、劇中に法螺貝が鳴ったり、鳴物の様子もいつもと違います。
また、要所に実際の録音の音が流れます。うじゃうじゃうじゃとしか聞こえなかった声が2度目にみたときには、過去帳の読み上げであることがわかり、人の名前が聞き取れたとき、作品との距離がだいぶ縮まりました。(ヒアリングマラソンか)
なるほど右大将頼朝の名を読み上げた後に青衣の女人が現れたの故事どおりだよ。

とゆわけで、2日連続のだんまりと坊主。
見事に具体と抽象というか、娯楽と荘厳というか、対照的で、また、坊主の総踊りに各劇団の歴史を感じるという5月でございました。

20日に国立劇場で東大寺修二会の声明の公演があり、またしても達陀への眼差しの解像度が上がってしまいましたが、それはまた別途。

前進座宗五郎の残りの部分について

弁天堂の後は井戸の場面はなくて宗五郎内へ。
菊五郎劇団のと筋も台詞もそんなに違わずですが、意味と状況が伝わるお芝居になっています。
どうして磯辺の屋敷に乗り込めないのか説明する宗五郎や、他の人の台詞を待たずに食い気味に入っていく三吉の会話など聞きながら世話ものということを考える。こういう間は大歌舞伎ではもう聞かないなあ。
あと、お酒こわい。床は舐めるわ樽に指突っ込むわ。落差がやばい。これはちゃんと禁酒しなきゃだめだー。
おなぎさんが宗五郎にちゃんと意見しているし、三吉が「なんで突きゃぁがった」と言われながらも再度止めにかかるとか、ほんとに迷惑なんだろうなあ。
ラスト、おはまさんが花道で、櫛を帯にしまって追いかけてゆくとこ好きなのであってよかった。
あー、またオヤジ(菊五郎)の宗五郎も見たいなー。
なんとかならないかなー。

歌舞伎座の残りの演目について

最初は「対面」。菊五郎がいて欲しかったよなと思いつつ。
五郎が、出からぱきっとしない。声も厳しそう。うーん。こどもみたいなのはいいけど、花形歌舞伎の若い子がやってるみたい。SNSに、五郎だけ別作品とか、オリジナルとか書かれており、苦笑しつつよくわかってしまう。
「さん候」の所、松也なりに怒りの噴出を表現していて、それはつたわるけれども、こういう演目の文法ではないと思う。
十郎ももうちょっとしっかりとめないと。
朝比奈と、近江がしっかり歌舞伎だったので、ちょっと交代しない?という感じだった。

次が、若き日の信長。しばらくぶりに見た演目だし、しばらくぶりに見た成田屋。以前よりずっといいと思ったけど、この場面で終わるならもっとカタルシスがあってもいいのに、盛り上がるでもなし、唐突に切れるでもなく、ただ終わる。
あと大詰め以外でも太鼓とか合図の音がなくて、ちょっとうとうとすると、次の場が始まったことに気づかない。昔もそうだったのかな。確かめたい。
あと良かったのは平手の爺(梅玉)。

最後、眞秀ちゃんのやつ。
團十郎白猿、菊之助の並びや、團蔵、楽善、時蔵と揃った姿に思うものがある。
團十郎白猿は殿様が似合う。
5月がくるとここに羽左衛門がいて、田之助がいて、左團次がいて、”夏雄ちゃん”がいて、三之助がいた。それを思い出すのも團菊祭のうちかなと思う。
菊五郎があの形でしか出られないのはまだ背中がお悪いのだろう。
立ちながら耐えている身体の震えが見えた。それでも絶対に立ち姿を見せるという意思だと思った。
声が元気で覇気のあることが救い。

眞秀ちゃんは普通。5歳とかだと、すべてかわいいで済んでしまうが、10歳だとそこは過ぎていて、もうちょっとできていいのか、こんなもんなのか判断がつかない。

夜は、先に述べた宮島のだんまりと達陀以外に髪結新三。
テレビやって帰ってきたら菊之助の芝居がおかしい、みたいなこと、昔はあったなあ。歌舞伎見始めの自分が実感するほどに歌舞伎味がなくなってたんですよ。
今回はべつに調子がおかしいんじゃなく、菊之助って、今のところこういうリズムの人なんじゃないかなーと思います。七五調もメトロノームのように刻む。電子で音楽の打ち込みをするときに、手で演奏した揺らぎのある曲をいじって正確に拍子に合わせることをクォンタイズと言うのですが、クォンタイズ要らずというか。
十年後にどうなってるかなという所。
あと変だったのが永代橋の所の着物の重心が高くてなんか変なんやなー。菊五郎の脚を思い出しながら見てました。
彦三郎の親分もちょっと無理してるかな。
怒ってるんじゃなく常に弱ってるみたいに見えてなんとも。
今回は大家がペースメーカーですよね。そこにきてやっと調子が上がってくる。
権十郎はすっかりこんなポジションなんだろか。
いちばんすんなり楽しかったのは萬次郎の大家のお内儀さん。
なんかもうあの人の芝居だけずっと見てても飽きないですね。忘れてたけどこの2人兄弟なのよね。
あと、お弟子さん勢が活躍しており、勝奴を菊次がやっています。じょうずとは言えませんがスンとした所に魅力があり、場数を踏んだらいい感じになりそう。
自分は、新三と勝奴は、傷だらけの天使のオサムとアキラみたいなパワーバランスなのかなーと思うんだけど、今回は勝奴が割合大人で、そこそこのことができる相棒くらいに見えますね。
笑ってしまうのが菊市郎の姪っ子が菊史郎で、身内感に納得しかない所。昔から見分けがつかない。
あーそうだ、カツオ。咲十郎。ずっと持ち役になるんですかね。声厳しそうですががんばれ。

菊五郎の新三の映像、こちらに少しあります。
忠七とカツオ売りも出てきます。
https://www.wajuku.jp/online/葛西聖司の歌舞伎のツボ【第壱回-髪結新三】/

そして咲十郎のカツオの話

山崎咲十郎『髪結新三』 イキの良さが身上、肴売新吉【「ゆけ!ゆけ!歌舞伎“深ボリ”隊!!」今月の歌舞伎座、あの人に直撃!! 特集より】(ぴあ)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b3076b1f3ed319527f9960c5051750aede6d909

解説口上とか

今月の歌舞伎座の髪結新三は、幕が開く前にちょっと解説が入ります。勤めるは蔦之助。
(FFX歌舞伎のブリッツ実況ですっかり声を覚えましたわ)
相関図のパネルを前に前提の説明だけでなく、上演されない後の幕の話から、きれいなまとめまで。
(でも幕切れはまず本日はこれ切りーでばさっと切る。なんだろうこのアンバランス。)
世間は”許す”と”要らん”の両論。
私はまあいいかなーと思うけど、幕が開く前は「その先は舞台で」まででいいように思います。
観客をもうちょっと信じてもいいんじゃないかな。
いろんな角度からものを見ろとか言ってたかと思うがすっと入ってこない。誰の言葉なんだそれ?と思ってしまう。文章で読んでもきっと入ってこないと思う。口上の役者さんのせいではない。
いろんな見方を考えさせるなら見た後じゃないかな。

そういえば魚屋宗五郎の芝居は、元は磯部の屋敷の後に「神明前祭礼」(仕返し、もしくは敵討)という場があり、明治から戦前は当たり前に上演記録があるのですが、戦後は一度だけ。昭和31年。二代目松緑。
松助(松也のおとっつぁん)が酒屋の丁稚で出てる頃です。えらい前ですね。こんど菊之助が演るときはこれも説明されちゃうのかな。どうせなら本当に通しでやってみてほしい。なぜその場が出ないのか多分見るとわかるんだろね。

2023.5.20


前進座五月国立劇場公演「魚屋宗五郎」「風薫隼町賑」舞踊かっぽれ
2023年 5月9日(火)~17日(水)
国立劇場大劇場
魚屋宗五郎 /藤川矢之輔、女房おはま/河原崎國太郎、父親太兵衛 /山崎辰三郎、若い者三吉/中嶋宏太郎、腰元おなぎ/早瀬栄之丞、菊茶屋女房おみつ/上滝啓太郎、おつた/玉浦有之祐、岩上典蔵/松浦海之介、浦戸紋三郎/嵐市太郎

歌舞伎座新開場十周年
團菊祭五月大歌舞伎
2023年5月2日(火)~27日(土)
昼の部 午前11時~
夜の部 午後4時~
【休演】10日(水)、17日(水)
昼の部
寿曽我対面
工藤左衛門祐経/梅玉、曽我五郎時致/松也
曽我十郎祐成/右近、小林朝比奈/巳之助
化粧坂少将/新悟、八幡三郎/莟玉
梶原平次景高/吉之丞、近江小藤太/亀鶴
梶原平三景時/桂三、鬼王新左衛門/友右衛門
大磯の虎/魁春

若き日の信長
織田上総之介信長/團十郎、木下藤吉郎/右團次
弥生/児太郎、五郎右衛門/男女蔵
甚左衛門/廣松、監物/九團次
林美作守/市蔵、僧覚円/齊入
林佐渡守/家橘、平手中務政秀/梅玉

音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ) 岩見重太郎狒々退治
岩見重太郎/初舞台眞秀、弓矢八幡/菊五郎
長坂趙範/松緑、藤波御前/菊之助
大伴家茂/團十郎、渋谿監物/彦三郎
趙範手下鷹造/坂東亀蔵、腰元梅野/梅枝
村の若い者萬兵衛/萬太郎、同 光作/巳之助、同 佑蔵/尾上右近
重臣布勢掃部/團蔵、局高岡/時蔵、重臣二上将監/楽善

夜の部

一、宮島のだんまり(みやじまのだんまり)

傾城浮舟太夫実は盗賊袈裟太郎/雀右衛門
畠山庄司重忠/又五郎、典侍の局/梅枝
悪七兵衛景清/歌昇、相模五郎/萬太郎
大江広元/尾上右近、白拍子祇王/種之助
御守殿おたき/歌女之丞、浪越采女之助/東蔵
平相国清盛/歌六

春をよぶ二月堂お水取り達陀(だったん)
僧集慶/松緑、青衣の女人/梅枝、幻想の集慶/左近
練行衆/市蔵、松江、歌昇、萬太郎、巳之助、新悟、尾上右近、廣太郎、種之助、児太郎、鷹之資、莟玉、玉太郎、橘太郎、吉之丞
堂童子/坂東亀蔵

梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)髪結新三
髪結新三/菊之助、弥太五郎源七/彦三郎
手代忠七/萬太郎、お熊/児太郎
車力善八/菊市郎、下剃勝奴/菊次
家主女房おかく/萬次郎、家主長兵衛/権十郎
加賀屋藤兵衛/錦之助、後家お常/雀右衛門

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