空想音楽堂の原稿から「『いねむり紋蔵』 サウンドトラックレビュー」
「空想音楽堂かわら版」は、1999年4月18日から2000年3月25日まで配信されていたメールマガジンです。
そのときの原稿です。 Vol.002(1999/5/2発行)用。
公開日時(1999/4/24)は、この原稿を提出したメールの日付です。(2010/11/14 junjun)
============ひとこと説明
1998年4月から9月までNHKで金曜時代劇として放映された「物書同心いねむり紋
蔵」のサウンドトラック。
============本文
主題歌は、河島英五の「元気だしてゆこう」だが、本CDには歌もアレンジ曲も
含まれていない。つまり倉本裕基オリジナルの劇伴でまるまる構成されているCD。
各曲の解説も倉本裕基本人。
木管とストリングスが中心で、それに、やわらかな音色のフレンチホルンやピ
アノが加わる。ゆったりとした、やさしい音楽である。
最近、時代劇の世界では、こういう雰囲気の音楽がはやっているんじゃないか
と思う。『剣客商売』や『新・御宿かわせみ』がそうだ。ことさらに日本的でも
なく、悪をやっつける勇ましい音楽でもない。土の上にやわらかに降りそそぐ陽
光、といった雰囲気の音楽。実際、時代劇全体の方向が、正義の味方を描いたも
のから、江戸庶民の生活を描いたものへと移りつつある。音楽もまたそれにあわ
せて変わっているのだろう。
解説で「江戸のテーマ」と呼ばれている主題は、すこし民族的で田園風景を連
想させる。「花のお江戸の賑わい」という曲では、このテーマを、「たたった、
たたった」という馬の歩みのようなリズムに乗せている。「江戸」という題名に
反して、なぜか、水車のあるような田舎を歩いている気分になる。
「桜吹雪く情景」はきらきらとちりばめられたピアノが、舞い降りる雪のよう
だ。こちらは、現代劇に流しても何の違和感もない、透明な印象。
スペースの都合で、ごく一部の曲しか紹介できないのだが、全体としては日本
の春。あるいは、四季がめぐってまた春がやってくる、そんなあたたかな印象を
残すCDである。
(junjun)
============データ
『物書同心 いねむり紋蔵』(1998)
音楽:倉本裕基
Original Soundtrack
【NHK金曜時代劇 物書同心 いねむり紋蔵】CD:TY:TYCY-5618
(東芝EMI TYCY-5618 2,548円(本体 2,427円)(制作:ユーメックス))
主題歌
「元気だしてゆこう」(『物書同心 いねむり紋蔵』OP)
作詞・作曲・歌:河島英五
【元気だしてゆこう】SCD:SM:SRDL-4508
(シングルCD ソニーミュージック・エンタテイメント SRDL-4508 1,020円)