詰め詰め盛り盛り流白浪燦星(2023.12 新橋演舞場)

最終更新日

ネタバレあります
ルパン以外にもネタバレあります
気になる人は引き返して

 

ルパー〜んさーんせい言わなきゃいけないでしょ
あの音楽もこの音楽も要るでしょ
タイプライターやるでしょ
五右衛門だから絶景かなやらなきゃいけないでしょ
逮捕ダァも、ふーじこちゃんも要るし
コラボの飲み物も宣伝しなきゃだし
せっかく白浪なんだものだんまり入れるでしょ
葛籠背負ったらおかしいかぁー
稲瀬川勢ぞろいやるでしょ 小判撒くでしょ
早替わりもあるでしょ
廓に花魁道中でしょ
本水でしょ
吊るでしょ

盛り盛りの詰め詰めだけど、毛振りと踊りはないです
代わりに立ち回りがわんさか
(尤も、今回のに毛振りが欲しかったとは言われないと思う。あと、立ち回り自体がダンス的であったり、糸星の所作的な振りなどはある。)

この詰め詰め盛り盛りの印象は今年四月の新陰陽師再演(と言いつつほぼ新作)に似ているかもしれません。
あの月はFFXもあったので、並んだ新作の印象比べになりましたが、FFXはゲーム自体が壮大な元ネタであり、歌舞伎は手法だったのではと思う。
新陰陽師は本歌探しが捗る演目で、やりたいからやった(そう言ってたからそうでしょう)宙乗りも付いてて、今回の、”やらなきゃいけないことは詰めましたし、本水やりたいからから本水の場面あります!”という印象と通じるものがあります。本歌もわかりやすい。
新陰陽師は、あれはあれで面白いながらも、原作小説の味を出した舞台化が見たいなと思ってもいるのですが、
ルパンに関しては、なんか、これでいいかなー。
ルパンこんな感じだった気がする。
自分にとって完全にしっくりとはきてないんだけど、はずれでもない。

ルパン三世を歌舞伎にするって割と無体な注文に思えます。しかも発表が遅く、上演期間は主要キャストのスケジュールの隙間に滑り込んだ感じで、稽古数日で幕を開けるいつもの歌舞伎とあまり変わらないタイトさだったようにはたからは見えます。カッコいいビジュアルにみんな期待してるだけにむっちゃ心配でした。
それでもできたのは、ルパンというご存知ものだから、作る側にも、ルパンこんな感じ、次元こんな感じっていう共通認識があったんだろうなあ。
決まったキャラはあの5人でよく、他は今回用のゲストとストーリーで構わない。
観る側としても同じで、ワンピよりもナルトよりもFFよりも刀剣よりもずっと広い層がふわっと、ルパンってこんな感じと知っている。
ルパン像を舞台の上で描き上げるというよりは、ルパンを想起させるきっかけを示してあとはお客さんの中にあるルパンの原像に助けてもらうということができてるんではないだろうか。
愛之助はあのルパンをやらなきゃいけない大きな枷があるのに対し「るぱー〜んさーんせーい」だけでだいぶ納得させてた。
所々で、あの節回しを入れたり、銭形が「逮捕だぁー」って言うとお客さん笑ってくれる。お客が優しいです。
あと、既存の歌舞伎のオマージュ盛り盛りなのも、ここはあの演目のアレでいきますよって言えば通じるからという所もありそうに思います。
あと、お馴染みの音楽が如何に大事か。
知ってる役者が知ってる役をやってて知ってる音楽が流れて拍手して笑いながら歌舞伎を見て小判を拾ってSNSにUPして、また来たい。
その感想は嬉しいことだけど、FFXのときも、みんなこんな高いのよく来るなって思ったのよねん。(すみません4回いきました)
今回やっぱり、ルパンの歌舞伎ってみんな何回も見たいものなんだ?…って不思議に思ってます。(行くけど)

今回、歌舞伎は敷居が高くてというお決まりの物おじもほとんど見かけてないんですよ。ルパン歌舞伎?行きたい!って即繋がってる気配がする。

それとは気付かずに自主的にお客さんが来てくれる歌舞伎鑑賞教室と言えなくもない。「皆様の歌舞伎」として成功してるといっていいんではないですかね。

あ。願わくば、無理なスケジュールで新作できちゃうじゃんの前例とはなりませんよう。
デスマーチ業界の人間としては身につまされます。丁寧に時間かけたとこから滲み出るものはたぶんあるし。

あとー、せくはらをしばいにいれるのはやーめーて


ながれしらなみ

外題と共に真っ白な地の仮チラシが発表されたときに
「流白浪」の字に想起される作品がありました
「都鳥廓白浪」
みやこどりながれのしらなみ
と読ませます
それは私がちょっと(だいぶ)若かりし頃、定時ダッシュして幕見に通った大好きな演目でした
廓の傾城花子がお宝を欲しがっており、馴染みの男 忍ぶの惣太もその人の為に宝を探している
しかし傾城と見えたのは実は女盗賊で
さらにその正体は男であり盗賊の首領、
さらにその正体は吉田家の若様松若丸。
(隅田川ものの梅若の兄。梅若の兄弟姉妹歌舞伎に結構いる。桜姫もそう。)
松若丸は盗賊となり廓に紛れてお家再興のため家の重宝を探していたのである
馴染みの男は失踪した松若を探す元吉田家の家臣であった。
(だけじゃなく色々あってこの人はだいぶ面倒な立場になります)
…というような、ムリだろー?な筋。
菊五郎の花子(仮名)が、殆ど芝居だけで男と女や盗賊と若様を行き来する様子が見事で、毎日でも見たいといそいそ電車に乗ったものです。もう遠い話です。

るぱんに戻りますが、
やがて追加キャストや役どころが発表になりますと、
なんと読むのかはわからないが、
右近くんが傾城とおおきみの二役だ。
大王は古代の回想の役だろうか。「実ハ」だろうか。実はなら実はって書いてあるよな。けど”流白浪”で傾城だよ?お宝を探すために廓に身を潜めているおおきみ。この設定、淡い確率であるのでは?
ないかなぁ

待つこと少し。(最初の発表が遅かったからそんなには待たなかった(笑))
新橋演舞場。廓で傾城糸星と長須登美衛門が出会ったときの私の、きちゃったかも、な気分をご想像ください。

で、どうやって大王を出すのかと思ったら、これは。将門かよ(笑)
あと、宇宙から降ってきたアンゴルモアの大王的な意味での「大王」でもあるのかなと思いました

傾城の為に宝を探す男と、主人を探す家来は別々。
まさか馴染みの男が五右衛門とは思わなかった。
似たような事情による松也・右近での命のやり取りと「愛の物語」(と、松也が言っていた)について”とうかぶ”で究極のものを見てしまったためか涙を誘われるほどではなかったのですけど。
やっぱ来し方が描かれてないと葛藤の深さがそこまで伝わらないというか。
(悪の権化となった大王に対して、尺八を吹いて聴かせる五右衛門に、ついキカイダーを思い出す私だったが忘れてほしい。)
どっちかというと長須登美衛門が悲劇で際立ちます。
立ち回りは千本桜の小金吾を想うところですかね。大ちゃん先月もぐるっと盾に囲まれてたな。
真面目な家臣ぶりは刀剣乱舞の久直を思わせる。
なんかこの人達には刀剣乱舞のリフレクションが感じられますね。
古典の場合はお宝が戻ればお家再興でめでたしとなるのがお決まりですが、都鳥はあとはわからない形。
今回のルパンは再興されては困るタイプの家(?)だったので、それなりの決着をつけてお開きとなります。
以上、流白浪のモチーフの一つとして、これもあるのかなというお話。

季節を考えよう。季節を。(なおナウシカ初演時の王蟲の水槽のアレも新橋演舞場で12月)

私が見た日は登美衛門が、ルパンと五ェ門の本水の立ち回りの余波で濡れた花道に滑ってしまい、客がそれに笑ったまま彼が必死の訴えをする場面に入って、その笑いから立て直せないまま四人衆との戦いで命を落とす。こんな悲愴感溢れる場面がいまいち伝わってなくて大ちゃん(鷹之資)可哀想だった。
(お客さんいつまでも笑ってる場合じゃないよぅ)
水の後の御注進。
これ、この段取りで良かった?ってちょっと思いました
ヒヤリハット、だよ。(ヒヤリハット知らない人は検索。大きな事故の陰に何百もの小さなヒヤリがある。1回見ただけでひやっとすることが2回あったのは気になる)

関係ないですが、水の所ではルパンと五ェ門は二回滝をかぶります。ルパンは最初から浴びてて、五ェ門は1回目は滝の下にいつつ顔が濡れないようにしてます。2回目に思い切り水をかぶってる。
イケメンを保つ技術や。面白い。

ごえもんってごえもん?

この作品、五右衛門の料理の仕方がどうなるのか予想つかなかったですよね。
ルパン三世に出てくる五ェ門は、五右衛門の子孫で、安土桃山時代には実際の五右衛門がいる。
このごえもんは、あのごえもんなの??
だいたいどうやってあのポスターのすっきりビジュアルに持っていくん?
→はい、お馴染みの山門からお着替え、髪もゆるふわレイヤーに変わりまーす。ポスターとは違う白塗りでーす
すがすがしいチカラワザ

百日鬘の五右衛門は低めの声にしていて、はっ、松助さんの声がする…と嬉しくなってしまった。
幕間で近くの席の人が、最初声も顔も違うしこれ松也なの?と思ったと話していました。
顔は隈取仮面のアレなのでなんとも言えない誰なの?感ですね。

やがて山門がせり上がって登場のルパン。「白浪に御報謝ー」の辺りはちゃんとやってくれてるーと嬉しくなるところ。(泥棒にって言ってましたね)

死んだはずの五右衛門と生きてる五ェ門の辻褄合わせは牢内で。(かわいそうだなあの人たち)
一度死んで、生まれ変わるってことでしょうかねえ。裸一貫になって……ってそれはそういう裸じゃねえよな。なんだろう、せっかく全部白く塗ったからお見せしよう!なのか?
効果は絶大みたいですけど。
あまり感情の動きを見せないキャラで、その辺の武器が封印されてる感がありますが
終始二枚目(割と本来の意味で)をやることに徹底しててこれはこれで潔い
ほーらこんなにキレイな松也大サービス
チャンバラもあって豪華
なんなら通路にも来るよ近いよ

ですが五ェ門なのかどうかはよくわからないですね
斬鉄剣を得、つまらぬものをって言われてようやく五ェ門になったのかもしれないって思いました

役など

今回の配役はルパン一味になってはいるけど、極め付きでこの人なのか?と言われるとわからないんですよ
例えば…FFX歌舞伎で、ユウナ他の人でできる?できなくない?これがユウナでしょ?って思うじゃない?
あのレベルが最強に錬成し上げた所だとして(異論は認める)
このルパン一味は替えが効かないのか?これ以上はないのかって言われると
たぶんあるんでは?
例えばあの埼玉の映画の愛之助にしかできない度に比べると、ほかのルパンはありそうに思うし、
五ェ門さんだって”初演は松也でした”パターンかもしれない

ルパン役は如何に寄せるかみたいなとこが評価されがちで、そこも技術だとは思うけど
またの機会にしどころのある話があるといいですね。
五右衛門見てたらちゃんと捕り物に集中できなかったので、次見るときはルパンをよく見よう。

次元

笑三郎。このキャスティングはどうやって決まったんだろうなあ。すごく知りたい。
できると確信してないとこの人に持ってきませんよね
渋いおじさまに仕上がってました
これは…もしかしてニン…なの?(こないだ見たときは頼りがいのある姐御だったです)

真柴久吉

ちょっと出るだけかと思いきや結構がっつり
侵略の夢に取り憑かれた為政者のポジション
水戸黄門から立場逆転ですね
千鳥の相方(音が低くて様子がおかしい)でひっこみ…なかなか引っ込まない、の所、可笑しい。
聴きながら、水辺じゃないのになんで千鳥?って思ったんだけど、千鳥じゃん。千鳥の香炉だ。今の今気付いたわ。

不二子

昔、アニメの作り手の方のお話で、不二子は自分より年上か年下かを人に聞くとみんな年上だと思うって言うと読んだことがあります。幾つなんだ不二子。
今回はそれとは別の意味で、お客さんから年齢にええぇってなられてて、知ってる人は全員「計画通り」と密かに微笑していたものと思います。
着付けがむっちむちなのとは別に、歌舞伎っぽくないことがあり、なんだろう?って見てたんですが、まっすぐ正面向きで立ってるとこがある。現代的な不二子だからなのかな

からくりや

この人が出てきた時、うわ金田龍之介がいるって思いました
絵に描いたような悪役で最後すごいことになってた。顔はキャンバスだね。

とっつぁん

この人も、顔はキャンバス。この人とルパンでだいたいルパン三世の世界を引き受けてたといえよう。
なんだかちょっとバタバタする。(バタバタする役ではあるが)
聚楽第のところで、二振りの刀を抱えていたら一振りが下を向いたんでしょうね。鞘走ってしまって、あぶねえ。捕り縄の扱いも後半ではこなれているといいなあ。

立ち回りの人(と人じゃない方々)たち

所作殺陣的なものとアクロバットがなじんでいてよかった。花道をとんぼ返りながら引っ込んでいくやつとか、やんややんやじゃない?
鷹之資くんとからくりさん(まつ虫くんかな)の最初の戦いもよかったし、とみー討ち死にもよかったな。

番付

廓のところ。歌舞伎のプログラムは現在、東京と京・大阪で呼び名が違います。
ルパンは番付と言ってますね。上方の人や。
贔屓は毎回変わるのかな。気が多いw
自分はメタなネタは1個くらいでよいと思ってます。
(でも寿猿さんはしょうがないかなあ)

しらーなみーや

の唄が聞こえると、うっわ、と思う
流石にこの演目だけは他のどれよりも見たから反応
名乗りは序盤のものなのではという感想を見かけましたが
白浪五人男は物語の終盤に勢揃いして捕り手に対して一人ずつ自己紹介があるんで、いいのよ
小袖の模様は筋書にありますが
ルパンは赤い薔薇と流れ星
次元は三日月とキセルと背中に銃
不二子は藤
五ェ門の尺八は今回のやつ、龍はなんだろう。燃えよ斬鉄剣の龍?松也くんの名前の龍じゃないよね(違う)
※そういや、今回の刀の名前が龍だった。
とっつぁんは銭と捕縄、ワッパと十手。
1か月だけとかもったいないすよね。
新作の再演の道がもっとあるといいですね。巡業も面白いかも。

というわけで、まずは1回目。
(2023/12/9 観劇)

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