ばあさんふたたび | 第三十六回吉例顔見世(2000年10月御園座)

最終更新日

第三十六回吉例顔見世(2000年10月御園座)
御園座
初日 2000.10.1 楽 1000.10.25
観劇日 2000.10.7
※この文章はまささんの御意見版に寄稿したものに加筆したものです。


今年の御園座顔見世は、華やかで、あれもこれもと楽しい、 幕の内弁当のような演目がそろいました。 昼夜通し。1日見ると最初に見た演目を忘れてしまいます。
(^_^;;) しかも、どの順番でやったかなんて、昼夜記憶がごちゃ混ぜ。


(昼の部 )
一、ひらかな盛衰記
源太勘當
一幕
梶原源太景季 梅玉
腰元 千鳥 松江
梶原平次景高 歌昇
茶道珍斎 十蔵
横須賀軍内 芦燕
母 延寿 田之助 弟役の歌昇さんが、おかしー。 初役だそうですが、大きな子供のような役。はまっています。 千鳥、松江さん。かわいー。びびびびびーー。 田之助さんは武家の母役も似合います。 足の具合の関係で、御簾をおろす型にしたそうですが、心配です。 いつも思うけど、こういうでっかいお屋敷の、ものすごく奥ゆきのある背景画 には、本当に感心してしまいます。

二、色彩間苅豆 かさね
清元連中
腰元かさね 芝翫
百姓 与右衛門 実は久保田金五郎 吉右衛門 古風な趣きのある腰元かさね。(芝翫さん。) 逃げる男を霊力で引き寄せるところも、 ナマの女の、この恨みはらさでおくべきかー、というどろどろしたものよりも、 はかなく散ってしまった女がこの世に残した執着、という雰囲気でした。


三、ぢいさんばあさん
三場
美濃部伊織 團十郎
下嶋甚右衛門 團蔵
宮重久右衛門 辰之助
宮重久弥 新之助
久弥妻 きく 宗之助
戸谷主税 由次郎
石井民之進 十蔵
山田恵助 右之助
柳原小兵衛 家橘
伊織妻るん 菊五郎

團菊コンビでの再演になります。自然、前回と比べながら見てました。 菊五郎ばあさん…おっと、ばあさんになる前の若妻「るん」です。 夜の部の寺子屋に影響されているのかどうかわかりませんが以前にやったとき にくらべて控え目な感じになっています。

お化粧は、前のときは眉を書いてました? 今回は眉なしです。紫系の衣装。 若作りの印象にはならない反面、若々しいという感じにもならないです。 年齢不詳。

前回は、武家の出で、キャリアウーマンで、運命にもめげずに おばあさんになるまで勤め上げたえらい女性、というか、ああ、この人だから 耐えられたのね、という芯の強さを感じました。 今回は、えらい女性には違いないんですが、ふつうの女性が、運命のいたずら で、夫と離れ、子供を亡くし、ああ、やっと会えてよかったね、 …という印象を受けるのは、やはり前半の若いころの演じ方の違いでしょう。

座布団のシーンがありますね。若夫婦がならべておいた座布団 (を、さらに、じーさんがくっつけたもの)に ばーさんになった「るん」が座ってみる。 ここは、前は、にーっ、と歯を見せてわらって、笑いをとっていましたが 今回は、ふっ、と微笑む感じ。 もともと上品なばーさんだとは思ってましたが、さらに上品になりました。 最後のあたりちょっとこちらの耐久力が切れてくると、見るほうがつらくなり ます。じーさん、ばーさんのテンポというのはああいうものなのかもしれませ ん。

過ちの元になる下嶋は團蔵さん。さびしいやつ。こういう人間なんだというこ とが、この話の中では最もよく出ていたと思います。


(夜の部)
一、菅原伝授手習鑑寺子屋
一幕
舎人 松王丸 吉右衛門
女房 千代 菊五郎
源蔵女房 戸浪 松江
武部源蔵 梅玉
御台園生の前 芝翫

梅玉さんが、学校の先生ですねえ。年恰好が妙にちょうどいい。 こういう先生いそう。 よだれくりクンは、今回は納屋橋饅頭をご所望でした。

菊五郎さんは、松王丸の女房役。 梅玉さんとの立ち回りは、予想通り、かっこいー。 その後は、なんつーか、吉右衛門と菊五郎だなあ、と思いながら見てました。 あとは、上に着ていた衣装を脱ぐと白装束になるところ。 これも良かったです。

御台さまが芝翫さんです。たいへん立派な御台さまです。

二、歌舞伎十八番の内 勧進帳
長唄囃子連中
武蔵坊弁慶 團十郎
源義経 辰之助
亀井六郎 家橘
片岡八郎 右之助
駿河次郎 十蔵
常陸坊海尊 芦燕
富樫左衛門 新之助

成田屋親子での弁慶・富樫ですが、見終わった印象は、團十郎さんの一人舞台 という感じでした。 問答のところでは、むりやり難癖をつける富樫に、余裕の弁慶。弁慶の勝ちと 決まっている勝負ということがすぐにわかってしまいます。

新之助・富樫で良かったのは、通してやることに決めて、くっと思い入れて、 それから退場する。ちょっとオーバーアクションのきらいはありますが、富樫 の気持ちが良く伝わってきます。よーわかりませんが、この先のほうが富樫は いい感じなのです。

辰之助さんの義経。出てきたときにぱっと広がる意外な美しさ(ごめん辰ちゃ ん)。そこだけもう一回見たい。 しかし、この義経は、待ってる間なんだか視界に入るんです。背が高いのでしょ うかねえ。


三、人情噺文七元結
二幕四場
左官長兵衛 菊五郎
女房 お兼 田之助
和泉屋手代 文七 新之助
長兵衛娘 お久 宗之助
角海老手代 藤助 松助
角海老女房 お駒 松江
和泉屋清兵衛 團十郎 

新之助文七の台詞回しが笑えます。タダのなよなよした男ではなく、そこはか となく押しが強いのです。落胆してるのか怒ってるのかよくわからない。
「あぁなぁたぁ」、って、いっしょに見に行った妹としばらく流行してしま いました。このテイストは文七そのものではないのだと思いますが、悪くない です。菊五郎・長兵衛ともよく噛み合っています。
そのほか、お兼さん、藤助さんと、いつもどおりです。
田之助さんのこけるのはすこし控え目だったかもしれませんけど、「屏風芸」(いま名付けた)には笑わせていただきました。
夫婦喧嘩。以前に「タコに耳」 (耳にタコの言い間違い)を聞いてしまったため、そこのとこだけ、見るほう が緊張してしまいます。
松助さんの藤助。いつ見てもええです。飽きません。
宗之助さんのお久。これも持ち役ですね。このテンポの遅さ。とてもあのお兼さんから生まれてきたとは思えません。これも好きですが、ちょっと飽きたの で何か違うことをやってくれないかな。 (リッチな役がなかなか来ないそうです。なんとなく面白いです。シンデレラ 役者)
菊五郎さんの長兵衛もいつもどおりの江戸っ子ぶり。「なんとかしなねえ工夫 はねえかなあ」「この人にやったんだ−っ」 あたりが好き。
もうちょっと長く見たいんですけどねえ。さくっと終わってしまうんで食い足 りないところがあります。
このお芝居が最後だと、幸せな気分で帰れてよいですね。

先日、妹が「ぢいさんばあさん」について、前の方がよかった、と言っていました。よそでははっきり書きませんでしたが、実は私もそう思っていました。
「るん」に張りのようなものが感じられない気がしました。
寺子屋の方は、 他の人の劇評に、夫婦っぽくなさが指摘されていて、ああそういうことだったのか、と、ちょっと疑問が解けたように思いました。
見ながら、菊五郎だな、吉右衛門だな、という風に見えていたのです。 で、じーーっと見つめながら、千代かわいそう、とかじゃなく、ああ梅幸さんに似てきたなあ、と思っていました。

今月(11月)の歌舞伎座にも、菊吉で踊りがひとつありますが 、やっぱり、菊五郎と吉右衛門のように見えます。(も一人いるので、トータルすると、菊五郎と、吉右衛門と、雁治郎だなあ、という感想になるわけですが。)この、溶けあわない感じは非常に気になります。味のしみこんでない煮物とか、1日目のカレーとか。

文七元結、は、ほんとうに幸せな気分になれてよいお芝居です。帰りに、御園座から帰る人たちを目当てに、別のことでチラシ配りをしたら、みな、思いのほかよくもらってくれました。みな、いい気分だったんじゃないかな。
この芝居、だいぶ慣れてしまってどうってことなくなってしまっている感があるのだけど、そこへ新鮮な風を吹き込むのは、いつも文七です。 今回は新之助。
最後に吉右衛門の鳶頭が出てきて、これがまた、なにもしないのにイイ役です。松助とならんでなんかやって欲しいとか思う。
この芝居の菊五郎については、安定していて、なじんでいて、あまりになじんでいるが為になにも感想が浮かびません。

(2000.11.16)

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