9月に観たもの… 浪花の夏と困った人々(2024.9 歌舞伎座、新国立劇場 ほか)

全く涼しくならない毎日35度超えの9月
困ったお主様とか困った身内とかで溢れる月でした
なにわ率高い

※以下敬称あったりなかったりごめんください

バサラオ (劇団☆新感線 (明治座))

ヒュウガ/生田斗真、カイリ/中村倫也、ゴノミカド/古田新太
ヒュウガというと思い出すのは光秀なのですが
このヒュウガは既存のすべての権威を否定し唯一の存在であろうとする信長のような役で
相棒のカイリのほうが光秀のような立ち位置になっています
カイリは「解離」でしょうか
自らの才能を発揮してヒュウガに天下をとらせることが一切楽しくなかったとは思えないし
ヒュウガがずっと桜にこだわり続けた理由が自分の言葉にあったと知ったときの愛憎はいかばかりか
翻って、ヒュウガは折れない
少なくとも自分は、カイリが求めたように破滅が見てみたいと思ったのですが、殺されたって崩れない。
それを体現して歌い踊り六方まで踏む生田斗真の生き場所を感じ、劇団☆新感線もまた、このくらいの劇場で観るのがよいと思いました

新国立劇場 中劇場

夏祭浪花鑑

令和6年9月歌舞伎公演 未来へつなぐ国立劇場プロジェクト≪歌舞伎名作入門≫
・入門 『夏祭浪花鑑』をたのしむ
・夏祭浪花鑑

別途長めの文を書きました

こちら→彦三郎 いまの団七 (2024.9 新国立劇場中劇場)

声の圧が高めだからって彦三郎を高圧の人にあてるのは違うなと思っていて
でもどういう役なら合うのかわからずにいたら、似合う団七を作って見せてくれました
以前、丈がSNSに上げていた、椅子の撤去された国立劇場大劇場の広い地べたにぽつんと座り込んだ写真を思います
あの劇場はもうない
制約のあるここで、あがいてあがいて咲かせる花が観る人に響いているように思えました

今月リピートしたのはこの芝居だけになりました
次点は夫婦パラダイスですが割と脳内再生で足りてしまい、もう一度目の前でとおもったのが夏祭でした
だってどうしても神輿越しの団七を観たかったんだよ
それであの、一回、通常の劇場には存在しない10列目花道正面席(24番)を取りましてん。
感想を書きますと、目のやり場にこまります。
えっちな意味じゃなくて、完全に目が合うので。
例の団七のぐっと踏み込んだ見得もそうですが、徳兵衛(坂東亀蔵)に真っ直ぐ見られるのすごく困った。
まっすぐ見返していいものなのか。
お辰・孝太郎はんが花道を通るとき決して真っ直ぐに歩かずわざわざ蛇行する道筋が見える。そんな所に上方を感じ、これはええもん見たと思いました。

足元の雪駄の鼻緒の質感とかもはっきり見える
この雪駄かー。この雪駄なのかー。

ただ意外にもステージの声が少し籠ります。そういうポイントなのかな。
黒御簾の音は大変よく聞こえます。(菊五郎劇団でした。無茶苦茶聴き慣れた着到だった。)
もちろん花道の声もでかいですが、これは花横に陣取った方がでかいです。
直の振動が来るのも床の構造上なのか前の方でした。
まあ…あの、一回しか行かない人は素直に中央寄りを取ると良いと思います。花道正面だと芝居どころじゃなくなるから。

願わくばもう少し手頃な値段にならないでしょうか
以前の国立劇場のように後方や、花道から遠い席を安くするのもアリでは?
ワシらはひとに勧めたいんですよ

浅草公会堂 研の會

尾上右近の自主公演。今年は、大阪・東京での開催。東京で見ました。

摂州合邦辻

合邦辻は浪速区にあるそうです。今月なにわ率高いな。
当月、歌舞伎座では菊之助の玉手で合邦がかかっており、両方見たので先日少し書きました。
→玉手、玉手…玉環
右近の玉手は自分の物語に満足していないのではないだろうか?
なんだか寂しい顔をしていたように思いました。
そしてもうちょっと合うと思っていたの。
メモ:
・有名な懐刀を振り上げての台詞、右近の玉手は”ゆるさぬぞ”でした。これは梅幸のやり方だそうです。
おなじところ菊之助は蹴殺してました。

連獅子

もう一本は眞秀との連獅子
眞秀くんは花道でちょっとよろけたりして苦戦してました
でも毛振りは丸く、二人シンクロしていて良かった
別に合わなくてもいいらしいですが、合っていれば気持ちいいもの
声変わりが終わり大人の役ができるまであと何年もあるのね
歌舞伎に残ってくれるといいな

踊りが終わるとものすごい拍手が来ていました。体感で仁左衛門の一世一代のときくらい来てました。
拍手来すぎてカーテンコールで右近が「…しゃべらないほうがいいですか?」って言ってたくらい。
それは尾上右近という物語(あるいは右近と真秀という物語)への拍手なのじゃないかという気もした。
その気持ちは分かりつつも、いや、今日の舞台の出来はそこまでではないぞ…という葛藤もありながら、調和をモットーとする日本人ですのでちゃんと万雷の一部になってきました。

歌舞伎座 秀山祭九月大歌舞伎

歌舞伎座 昼

摂州合邦辻

菊之助の玉手。これも、先に触れた玉手、玉手…玉環で書きました。
この玉手は統合された印象があり、そこが玉手らしからぬのだけれど、芝居全体としてはまとまっていました。玉手にやり切った感がある。
個人的には萬太郎の奴入平が気に入り。
入平ってこんなフットワークのよい男前でした?と上演記録をひっくり返したら、團蔵とか左團次とか出てくる。え゛。強そう。
そりゃ格子戸くらいぶっ壊して来ますわ。

積み重なった巻き込まれ迷惑の集大成みたいな状況で、
合邦にあり得ないことを頼まれ涙ながらに「迷惑千万」と固辞する入平。
突然ふられる状況が当然笑う所ではないだろうという抑止力より強くて客席から笑いが来ます。
これを阻止せんとする詰まった間合いが合邦(歌六)と入平の間にありました。緊迫は続くけれど歌舞伎らしい所が削がれてしまう気がして難しいなあ。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す

初見。自分は好きで、なんなら今月イチにこにこしながら見てたと思いますが、退屈という声もあり。
高校あたりの古典や歴史の記憶を引っ張り出して
李白、白楽天、楊貴妃…あ、長恨歌?ってなる感じが頭の体操めいている。
これがローマの話とかだったら全くわからんかった自信あります。
あと空海がなんの謎解きをしているのかがいまいち見えないのが散漫になる原因かなと

夢枕獏的なものがちらちら感じられるのは個人的に嬉しい
瓜の話、宇宙問答、喋り続ける空海、相棒橘逸勢、訳のわからない猫の帽子(←帽子じゃないらしいです)

このやりとりや演出のいくつかが新陰陽師の時にほしかったと思いました
晴明と博雅にあんなやりとりをして欲しかった
なんだよ歌舞伎でできるんじゃん、って思うと口惜しい

空海の、凡人にはちょっと何言ってるかわからない自分の世界具合は、ほぼ幸四郎なのでは(苦笑)
幸四郎の世界を我々にわかる言葉に松也が訳す歌舞伎夜話の配信と印象が変わらん。
初演の逸勢の人選がうなずけます
(調べたら逸勢って後からすごいことになってんのね。なんでそんなことに。)

歌昇の白楽天が好きです。
笑みにシニカルな感じがあるのがいい。
売れっ子の玉蓮(米吉)と一緒にいても、突然に詩が降りてきたらそっちに行っちゃうみたいなの、好きですね。

あと、染五郎の仲麻呂が見ている、三笠の山にいでし月かも、な景色が
星がきらきらとして美しく
これが帰りたかった故郷だねと思ったらうるっときました

楊貴妃役の雀右衛門の話は玉手の話の方に書きましたが
話が話だけに時の流れを超えてきた先代がいるかのように見えました

歌舞伎座 夜

妹背山婦女庭訓

両花道で、舞台上はくるくるまわる川の装置
そうそう見ることもないからしっかり見ておこうと思った…のよ、去年の同じ月に
なので、やると聞いた時驚きました
やるんかーい

舞台は太宰館から始まり、吉野川へ
去年の同じ箇所より時間短いんじゃない?という印象がありました。
久我之助がなぜ死ななければならないか、知ってるのにピンとこない。染五郎の突っ伏しタイムがもう少し報われたい。
下手側は大抜擢な左近の雛鳥。
素直でまっすぐなのが伝わる雛鳥でした。きっちり教わってよかったなあ。

玉三郎の定高はどっちかというとおかあさんぽい
(昨年の時蔵のは亡き夫の遺志を継ぐ女社長みたいな雰囲気だった)
松緑は普通の顔になってて安堵しました
去年の化粧は皺の書きようがすごかったので。
(記録写真は普通なんですが、自分の見た日は、まー、クレヨンで描いたような黒々としたシワでしたよ)
雛鳥を死なせたことを悟ってから急に人間味のあるひとになっておりました。あくまでも入鹿への抵抗を決意する幕切れがよかった

余談
研の會の幕間に伝統芸能関係の方(役者や演奏者ではない)が知り合いと思われる人と話してて
左近雛鳥について「こんなガキにできるのかよと思ったけど悪くなかった」と言っていました
※「ガキ」は原文ママです。お言葉ですこと。
続きがありまして、以前平成中村座で見たお軽と勘平に対して同じくこんなガキにできるのかよ、と思ったと。でも悪くなかった。
それを思いださせるものがあったようです。
(これはもう二十年近く前の中村屋兄弟だと思われる。)
お軽と勘平にしろ、雛鳥と久我之助にしろ本当はそのくらいの歳だったのだろうと。

勧進帳

久しぶりに勧進帳を見ました。幸四郎の弁慶に菊之助の富樫。
歌舞伎を見始めた頃は山伏たちが最後の勤めをするあたりがすでに眠いポイントでしたがいまやその辺は楽に突破。
成長したつもりでいたら「判官御手を」の前あたりで朦朧としてきた。自惚れてました。

私が見た日は幸四郎が結構疲れていたんではないかと。
九字の真言が臨兵闘者皆陣烈前 でした。
八字だよ。
問答ももっさりしており(これは菊之助富樫との兼ね合いも大いにあろう)、六方も残った最後の力がギリギリ足りなそう
弁慶にこんな心配するのは松緑襲名のとき以来
去年、俳優祭の前に倒れてたし。働きすぎな気もするし
ただ、言葉は呪文のようではなくよく聞こえる。意味がわかる。それは好きです
インタビューを読んだら今回は高麗屋でなく吉右衛門のやり方でやっているそうで、身についた一式の再構築に手こずったのかもしれません
吉右衛門、菊五郎の勧進帳を見返してみますかね。

義経は染五郎。
初役のとき、この声が出ないと義経はできないと祖父から稽古をつけてもらっているのをテレビで見ました。それがいまも難しそうでした。
昔、坂田藤十郎の義経だったと思いますが、離れたところからのマイムだけで本当に手を取ったと感じるようなことがありました。それで私は初めてあの場面の歌詞を理解した。
あんなふわりとした所が少しあったらいいのにな。いまの染五郎義経は無機質さが勝っているように思われました。

ちなみに、幸四郎はこの日、六方のときの手拍子抑止にはかろうじて成功してました。
客席前方でチャッチャッと鳴りかけましたが、客席全体の”そこはやらないんだよ圧”が勝った。多数決なのよね。
笑うとこじゃないぞ問題もそうですが、その日にきたお客様が自分と同じ価値観であることを祈りながら観るような局面が最近結構あります。

夫婦パラダイス (シス・カンパニー(紀伊國屋ホール))

大阪を舞台に、勘当されたぼんぼんと駆け落ちする恋人の話…あるいは、夏の夜の刃傷沙汰だったかしら…(それこないだ初台で見たぞ)
なぜか舞台になる居酒屋?のおかみさんは東京弁なんですよ(回想らしいとこは関西弁)
夫婦善哉+須崎パラダイスだそうで。須崎パラダイスが東京だからかなあ。
(そして夫婦岩パラダイスと無関係と思えない)

松也演ずる柳吉役が浄瑠璃オタクなため、途中に色々挟まってきます。振り返れば最初から葛の葉で、ここから既に狐につままれる話なのかもしれない。
かいつまんで言うと晴明と河童の対決というか(つまみすぎ)。自分は今江祥智の童話が好きなのですが、その手のうつつゆめゆめうつつ領域の芝居でした。
松也は、だいぶ前のドラマの頃の似非関西人っぷりが嘘のようです。がんばった。ネイティブの段田安則と会話ができている。
自分でテレビ宣伝で言ってたけど、それほどクズではない役。知的好奇心が亢進してる系のボン。むしろ他の男たちのほうがある意味やばい。
蝶子(瀧内公美)の上方弁は若干似非っぽいけど田舎から出てきて磨き上げたという設定らしいので大目にみる。
うどん屋の店員役の福地桃子ちゃんのおぼこい必死さが良き(そういう役やねん)
段田安則、高田聖子、鈴木浩介、は悪くなるはずもなく、芝居を楽しむ芝居になっています。
おそらくは仕込まれた失敗、予定された偽アドリブもあることでしょうが全部今のハプニングに見えるのもまた達者

で、歌舞伎モチーフの動きも義太夫をひとふしも歌も達者にこなす松也サンですが、そこは割といつものやつなので驚かない。むしろ、鍋をかき回してるだけで場を持たせるみたいなのがよい風情。(ちょっと鍋の中が心配になるな)
どうでもいいんだけど、大阪の知り合い的には塩昆布はなんぼあってもよろしいものらしい。自分的には貰って持て余すものなんで、そのへんソウルが違うらしいです。あれはきっと上方の人に効くやつ
不条理喜劇面白いし、これほど合う役者もいないとは思うけれど、なんか、感想が「うまい」とか「達者」だけになるのは、もったいない気がしますね。

十三代目 市川團十郎白猿襲名披露巡業

今頃になって成田屋襲名に足を運びました。
今までなんぼでも見る機会があったのに、夏休みの宿題を最後の日にやる子みたいな。
梅玉さんがかなり長い口上をされて、襲名だけでなく「継承」という言葉も共に使っておりそこが印象的でした
古典は変えちゃだめなんだけどと前置きしながら、少しずつ変えている團十郎のスタイルに触れていて、毎回そうきたかという形で受け止めている旨。襲名全公演に付き合う見守りの姿勢がありがたい。
とうかぶのときもそんな感じだったなあ。

祝成田櫓賑

鳶頭と芸者と芝居の座元が出てきて團十郎娘や娘道成寺など織り込まれた舞踊で、早く成田屋さんが見たいですねーみたいな寸劇の入るやつ(だいたいわかるよね)
右團次がセンターで、よい踊り。
どうしてこの種の踊りは祭の若いもんに飛びかかられたりするんでしょうね
鳶頭芸者トリオ、常に因縁つけられてるんだろうか

河内山

團十郎の河内山宗俊、梅玉の松江出雲守
発端でちょっと難しい言葉で芝居してから、劇中の口上で九團次が演目の解説をするかたち。発端の場が出ないのでその辺を説明します。
“十三團”のときも、初っ端に情報処理が難しい場面をやってから途中で口上のスタイルでしたが、今回のほうがターゲットを絞ってるぶん、解説が直接的になってわかりやすいです
一旦役を抜けてイヤホンガイドくらいのスッキリした姿勢になるのがかえって好感
團十郎の河内山で思い出したのは、歌舞伎役者じゃなくて津川雅彦だったりしましたが(時代劇ですらなかった)、こういう陽のワルは当代團十郎のニンかもしれません。
松江公の出番が結構多く、梅玉さんのイラチなお殿様の芝居がたくさん見られてお得。
そろそろ天衣粉上野初花の通しがあってもいいなと思うけれど、團十郎の河内山は癖が強いので直侍の人選が難しい。ど真ん中はよいけど、バディになったときに釣り合いが…。直侍のがいいのかな。それなら相手方がなんとかなりそうか。

中井智弥 リサイタル (ヤマハホール 2024.9.16)

二十五絃箏を中心に箏、十七絃、琵琶、尺八、篠笛による演奏会
前半は昨年の詩楽劇の源氏物語(沙羅の光)からと、後半、刀剣乱舞月刀剣縁桐からの二部構成
流白浪もそうですが、西洋音階の曲と和楽器を組み合わせるとき二十五絃箏の存在はもう、困ったときの二十五絃といっても良さそう。
弾くだけでなく使いこなしが面白くて、
演奏中でも柱(じ)を動かして調子を変えたり、箏のボディーをパーカッションのように使ったりしながら
ベース音となる十七絃との組み合わせで奏でられていくさまに
黒御簾の中はこういう感じだったんだ、と、しげしげ見てしまいました。
流白浪のコンサートのときは遠目だったから手もとはあまり見えなかったんですよね。
「剣はじめ」(刀剣男士の舞の曲)では歌もありで、出向いて良かったです。

あれも録音した音源はあって何かの会のときに使われたのを聴いたことがありますが、ゲームの曲のメロディーが入っているので音盤に入らないと思われます。
一枚のレコードに当たり前にOP、EDが入っていた時代は遥か遠くなりました。FFX歌舞伎の音源も一向に出てきませんね。

天守物語の初演のシンセの音楽なんかも聴きたい気がします。
二年連続年末歌舞伎座天守物語の報せが入ってびっくりしましたよ。
今年はどっちの音楽でいくんだろ

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