「笛吹童子」「紅孔雀」をはじめとする伝奇作品群「新諸国物語」はラジオドラマとして誕生し、映画、本、テレビとさまざまなメディアに展開され、子どもたちに人気を得ました。ラジオの前の子どもの心をとらえ、映画となって中村錦之助をスターにし、人形劇となってわたし(たち)の前に現れた「白鳥の玉」「紅孔雀の鍵」。今回は、時代を超えて複数のメディアに展開されていった様子と共に「新諸国物語」を追います。
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父親が遊びを止めてでも必ず聞きに帰っていたのがNHKのラジオドラマの『笛吹童子』『紅孔雀』『オテナの塔』(タイトル等に記憶違いがあるかもしれませんし、漢字のあて方が間違っている可能性もあります。以下同)だったそうです。3つとも時代劇です。
民放でもラジオドラマはあったそうですが、質がどっと落ちたそうで、NHKのが幼稚園児/小学生の耳にも高尚で面白かったそうです。「オテナの塔の音楽が良かったんだ」と歌詞は忘れたようですが歌って聞かせてくれました。
私も、笛吹童子、紅孔雀については、NHKの人形劇で知っており、そのシリーズとしての題名が「新諸国物語」であることを知っていました。が、「オテナの塔」については知りませんでした。
調査の途中で30年代の子ども文化関連の資料を当たっていましたら、「新諸国物語」のラジオ・映画・絵物語関連の話が山ほど出てきました。そこに「オテナの塔」もありました。そう、少年が遊びをやめてでも聞きに帰ったそのNHKのドラマは3つとも「新諸国物語」だったのです。
そして東映娯楽版と呼ばれた少年向け映画の方向を決定し、東映初のテレビ作品になった「風小僧」のキャラクターも「新諸国物語」から生まれている。これは、この作品群をまとめて取りあげなければという思いに駆られてしまいました。
そんなわけで、今回、ほとんど私の趣味に走ってます。
時は奈良時代。雄麿は、蝦夷討伐の副将軍であり、白い(=銀の)鎧甲で「白鳥の騎士」と呼ばれていた。その人徳によりアイヌ人たちからも信頼を得た。しかし陰謀により追われる身となる。
一方、雄麿の婚約者である雪姫の家に代々伝わる「麻尼宝珠」と呼ばれる玉をもつと願いが叶うと言われていた。悪人たちはこれを狙う。ところが、偶然に春日部の小鷹(雄麿の家来)の射た矢に当たった玉の小箱からは、沢山の光が散らばった。その光のひとつひとつは白鳥の形をした玉だった。幾人かの人々がこの玉を拾って手にした。
この玉は、昔、白鳥王子が与えられたインドの至宝で、孔雀王子はそれをねたんでいた。孔雀王子に追われた白鳥王子は日本に渡る。孔雀王子は白鳥の玉の代わりにされこうべの形の玉を作って、白鳥の玉を持つものを滅ぼす遺志とともに代々伝えることにしたのだ。
白鳥の玉を持っているのは正しいもののしるし、そして、されこうべの玉を持つものは悪の宿命をもつ。されこうべの玉を持つものは白鳥の玉を持つものを滅ぼす使命に背けば落雷に当たって死んでしまうといわれていた。
ここで、雄麿を陥れる直接の悪人は黒主という豪族だが、もうひとり、されこうべ党の象徴とも言える人物が登場する。山賊の羅生丸である。彼には妹がいたが、白鳥党のものを助けようとして、羅生丸の目の前で落雷に打たれて命を落とす。本当はよいことがしたいと願いながらもされこうべの玉を持つものの宿命に従い、白鳥党を滅ぼすことだけを目的に生きる羅生丸の顔は、なんと、「白鳥の騎士」である雄麿にそっくりなのだった。彼はたまたまされこうべの玉を受け継いだ為に、宿命として悪の業を背負ってしまっているのだ。
雄麿もこの作品においては主人公と言うよりむしろ白鳥の玉を持つ者の象徴というべき存在である。彼の心情や行動よりも、彼を捜し守ろうとする者たちの行動や心情の方が細かく描かれており、特に春日部の小鷹は影の主人公と言ってもいいくらいだ。(かっこいいよ。)
最後には、行方のしれなかった白鳥の騎士=雄麿が姿を現し、白鳥党は総決起する。物語はめでたしめでたしで終わるが、羅生丸は捕まらぬまま姿を消し、されこうべの玉は後世に伝わることになる。
映画:映画なんですけどね。すごいよ。紙芝居風のオープニングが終わるといきなり羊だもん。(ハイジですか??)、ものすごいメイクの錦之助が幌馬車に乗ってて、襲ってきた悪者は三国志に出てくるような鎧姿、つれられていった先にはミンさんみたいな親玉がいて、こいつがすっかり中国の大入道のくせにしゃべりが江戸っ子だもん。で、テントがあって、夜な夜な宴会とかやってるわけよ。こういうのあったでしょー。小林旭の渡り鳥。でもこっちはほんとの無国籍。通りがかりに道を尋ねるとターバン巻いてるし、やっと見つかった盟友は、おいおいあんたは円卓の騎士かいみたいな格好。白鳥の玉の代わりに十字形(十字架のようだが、上下左右の長さが同じ)が仲間同士の誓いを示すしるしとして使われています。ヒロインの「日本ってどんなところかしら」で、いきなり富士山。で日本。7人のうち半分くらいは日本にいるのですが、悪党の方も日本とつながっている。それがねえ、日本に舞台がうつったとたんに、「越後屋、そのほうもワルよのう」「いえいえ、お代官様こそ」の世界。なんでそうなるかな。でも映画だとチャンバラが長いです。すごい長い。もういやっていうくらい。日本でもチャンチャンバラバラ、大陸でも火矢に鉄砲、砦があぶない…つづく。(くそー。高くて続きは買いたくない)
余談ですが、珍しく橋蔵が東映娯楽版に顔を出していて、若衆姿で例のひらりひらりの殺陣を披露してます。
関連するよそのページ:V・I・P 公開調査、のNo.6 にこのラジオドラマの詳細がある。
この物語は「笛吹童子」に登場する霧の小次郎と胡蝶尼の兄妹を題材にとったもので、「笛吹童子」では胡蝶尼が小次郎が兄であることを認めずに拒み続け、小次郎が胡蝶尼をかばって息絶えるときに始めて本当に兄であることを悟るのですが、「紅衣無法門」では、彼らの身の上がさらに数奇なものになり、ついに禁断の恋に。…こんな構想があったとしてもさすがに昭和20年代のラジオではムリだったでしょうねえ。
この小説はおそらく、現在入手不可能なのではないか(出版されたかどうかもわかりません)と思いますが、手に入ればぜひ読んでみたいものです。
1999.5.5までの判明分(年代順)
風小僧
1959.2.3-1959.12.29 48話
(なお、1958(昭和33).12.2-から西日本放送で先行放映)
火曜日 19:00-19:30
NET
モノクロ
企画:小笠原久夫
原案:北村壽夫
制作:東映株式会社
脚本:眞弓典正(1)ほか
監督:仲木睦(1)ほか
音楽:山田栄一→吉田英治(?)
主題歌:「風小僧」(詞)小笠原久夫、(曲)山田栄一、(歌)目黒祐樹
「風小僧」(詞)小笠原久夫、(曲)吉田英治、(歌)児童合唱団
キャスト:星影疾風之介/山城新伍、
風の小六/目黒ユウキ(現 目黒祐樹 1-13)→山城新伍(14話〜)
特筆事項:
・東映TV特撮主題歌大全集によるデータ
(提供:土下佐ヱ門様)
・東映のテレビ作品第一作として知られる。(ただし東京での放映では、「源義経」の方が先行である。)
目黒祐樹が中学進学のため13話までで降板。
それまで風小僧の師匠役を演じていた山城新伍が14話から風小僧を演じた。
クレジットで風の神は「?」となっているが、物語上は星影疾風之介がその正体。実際に中身をやっていたのは、和崎俊哉であったと「実録テレビ時代劇史」にある。
なお、音楽担当・主題歌の変更については要確認。
・原案北村寿夫とあるが、おそらく紅孔雀に出てくる風小僧こと風の小六のキャラクターをとったものであろう。(by junjun)
関連するよそのサイト:鑑賞くSM嬢 すごいタイトルだけど、れっきとした東映TVの公式サイト内のコンテンツ。2話分をレビュー。写真もあるぞ。(本家本元につき版権もなんも問題なし。)近藤ゆたか様のイラスト付き。
新諸国物語 笛吹童子
1960.5.6-1960.12.30 63話(要確認)
金曜日 19:30-20:00
NET
モノクロ、生
製作:東映
演出:廣渡三夏
原作:北村寿夫
主題歌:「笛吹童子の歌」(詞)北村寿夫、(曲)福田蘭童、(歌)みすず児童合唱団
キャスト:北大路欣也、山手宏太郎
特筆事項:
新諸国物語 紅孔雀
1961.8.1-1962.4.24
火曜日 19:00-19:30
NET
モノクロ
制作:東映株式会社
企画:片岡政義
監督:土屋啓之助
脚本:江原比佐夫
原作:北村寿夫
音楽:小沢秀夫
主題歌:「紅孔雀」(作詞)北村寿夫、(作曲)福田蘭童、(歌)井口小夜子、キング児童合唱団
キャスト:那智の小四郎/沢村精四郎(現 沢村藤十郎)、久美/愛川かおる、信夫一角/立松晃
特筆事項:
・メーキングオブ東映ヒーロー[2]には、「吉川英治作の一連の時代活劇のテレビシリーズ化」という思い切った(おっとっと)間違いが書いてある。
新諸国物語 笛吹童子
1972.12.3-1973.6.3
日曜日19:30-20:00
TBS
制作:大映テレビ
脚本:中村努、太田昭和
監督:黒田義之、太田昭和
キャスト:菊丸/岡村清太郎、霧の小次郎/神太郎、萩丸/内田喜郎、桔梗/瞳順子、胡蝶尼/市毛良枝、丹羽修理之亮/木村功、(菊丸・萩丸の母)/小山明子、赤柿玄蕃/藤岡重慶
特筆事項:→新諸国物語について
・カラーのテレビ作品では始めての笛吹童子
・歴史読本昭和48年2月号にこの作品の1〜3話に関する詳しい劇評がある。担当は楠本貫二氏。「怪獣・変身ブームの今、二十年の隔りのあるこの作品をどう今日的にアレンジするかが興味の的であったが、まず一応は成功といってよかろう。」とあり、開始時点での評価は高い。また同記事の記述から、劇場向けの作品のような本格的な合戦シーンや特撮があったこと、原作に比べ、霧の小次郎へのウェイトが高いことなどがうかがわれる。
・が…主人公を助ける妖怪とかが出てくる。
・裏番組は「山ねずみロッキーチャック」
「新諸国物語」より 笛吹童子
1977.4.4-1978.3.17
月〜金曜日 18:05-18:20
NHK
脚本:田波靖男
原作:北村寿夫
人形:斎藤徹、(ひとみ座)
キャスト(声の出演):里見京子、近石真介、語り/雷門ケン坊
「新諸国物語」より 紅孔雀
1978.04.03-1979.03.16
NHK
脚本:田波靖男
原作:北村寿夫
人形:斎藤徹、(ひとみ座)
キャスト(声の出演):那智の小四郎/三波豊和、久美/水沢アキ、語り/近石真介
新諸国物語 笛吹童子
東映
モノクロ、スタンダード
「第一部どくろの旗」1954.4.27公開、
「第二部妖術の闘争」1954.5.3公開、
「第三部満月城の凱歌」 1954.5.10公開
原作:北村寿夫
脚本:小川正
監督:萩原遼
キャスト:菊丸/中村錦之助(のちの萬屋錦之介)、萩丸/東千代之助、霧の小次郎/大友柳太郎、提婆/千石規子、赤柿玄蕃/月形龍之介
霧の小次郎
東映
モノクロ、スタンダード
「第一篇金龍銀虎」1954.8.10公開、
「第二篇魔術妖術」1954.8.17公開、
「完結篇三日月童子」1954.8.24公開
原作:北村寿夫
脚本:小川正
監督:佐伯清
キャスト:霧の小次郎/大友柳太郎、三日月童子/東千代之介、胡蝶尼/高千穂ひづる、提婆/千石規子、赤柿玄蕃/青柳柳太郎
特筆事項:笛吹童子姉妹編、のアオリがある。
三日月童子
東映
モノクロ、スタンダード
「第一篇剣雲槍ぶすま」 1954.10.12公開、
「第二篇天馬空を征く」 1954.10.19公開、
「完結編萬里の魔鏡」 1954.10.26公開
原作:北村寿夫
脚本:小川正
監督:小沢茂弘
キャスト:三日月童子/東千代之介、提婆/千石規子、黒姫太郎/三條雅也、千原しのぶ、藤里まゆみ、松島トモ子、岸井明、大泉滉
特筆事項:「戦慄と冒険の映画王国」のデータで「第一部剣風槍ぶすま」「完結編萬里の魔城」となっているが、パンフレット写真の記述を採り「剣雲」、「魔鏡」とした。
新諸国物語 紅孔雀
東映
モノクロ、スタンダード
原作:北村寿夫
脚本:小川正
監督:萩原遼
「第一篇那智の小天狗」1954.12.27公開、「第二篇呪の魔笛」1955.1.3公開、「第三篇月の白骨城」 1955.1.9、「第四篇剣盲浮寝丸」1955.1.15公開、「完結篇廃墟の秘宝」1955.1.21公開
キャスト:那智の小四郎/中村錦之助、久美/高千穂ひづる、五升酒の猩々/大友柳太郎、信夫一角/三條雅也、網の長者/吉田義夫、風小僧/山手弘、黒刀自/毛利菊江、浮寝丸/東千代之介
新諸国物語 七つの誓い
東映
カラー、シネマスコープ
「黒水仙の巻」1956.12.26公開、「奴隷船の巻」1957.1.3公開、「凱旋歌の巻」1957.1.9公開
原作:北村寿夫
脚本:佐々木康
監督:佐々木康
音楽:福田蘭童、山田栄一
キャスト:中村錦之助、大川橋蔵、伏見扇太郎、波島進、吉田義夫、山形勲、月形龍之介、千原しのぶ、丘さとみ、三笠博子、浦里はるみ、三條雅也、片岡栄二郎、徳大寺伸、山口勇、加賀邦男、東千代之介
参考文献・参考サイト
(番号は当サイト内で使用している統一の番号です。番号が飛んだりしているのは、そのためです。)
(1) QA 1990年7月号 [雑誌]
(4) メイキングオブ東映ヒーロー (1-3)(講談社。講談社X文庫)[文庫]
(21)東映京都テレビ映画25年(東映京都スタジオ1982)[冊子]
(25)実録テレビ時代劇史 ちゃんばらクロニクル 1953-1998(能村庸一著、東京新聞出版局刊 1998)[単行本]
(26)全特撮 (発売元:スティングレー、販売元:パトラ 1998)[CD-ROM]
(未採番)東映TV特撮主題歌大全集 [ビデオ]
(未採番)毎日新聞縮刷版
(未採番)宇宙船別冊 70年代東映特撮グラフィティ 変身ヒーローアルバム(朝日ソノラマ 1986)[雑誌別冊]
(未採番)宇宙船別冊 70年代特撮グラフィティ スーパーヒーローアルバム(朝日ソノラマ 1987)[雑誌別冊]
(未採番)笛吹童子・紅孔雀(北村寿夫著 講談社。Super文庫 1990)[大判単行本]
(未採番)「歴史読本」昭和48年2月号(新人物往来社)[雑誌]
(未採番)別冊太陽「子どもの昭和史 昭和20年〜35年」(平凡社1987.12.27) [雑誌別冊]
(未採番)別冊太陽「子どもの昭和史 昭和35年〜48年」(平凡社1990.2.11) [雑誌別冊]
(未採番)歌舞伎の襲名 (演劇界2月増刊号 演劇出版社 1998)[雑誌増刊]
(未採番)東映娯楽版コレクション 旋律と冒険の映画王国(那智史郎著 ワイズ出版 1999)
Last modified: Mon Jun 7 23:56:42 1999