10月は半七VS.平次です

世の中に五大捕物帳と呼ばれる作品があったそうでございます。
半七捕物帳、右門捕物帖、銭形平次捕物控、人形佐七捕物帳、若さま侍捕物手帖。
(原作の発表年は順に、大正6年、昭和3年、昭和6年、昭和13年、昭和14年)
今回はこのなかから、捕物帳の祖として名高い半七捕物帳と、長い間テレビで浸透している銭形平次をとりあげます。いずれも古く映画から取りあげられている作品で、テレビ作品での登場も古いですが、古いのは見るすべもないので、もしご記憶にある方はこんな風でしたと教えてください。

半七、平次、に関する思い出は物書きどころ、またはメールでどうぞ。


この物件の更新履歴


三河町の半七

岡っ引きの報告を、役人が町奉行所に報告すると、これを書き留めておく帳面が「捕物帳」である、と位置づけ、また捕物帳小説のはじめであるとされているのが、岡本綺堂作「半七捕物帳」です。
(実際は捕者帳という、捕物の際の動員名簿のようなものであったそうです。このあたりの経緯は参考文献にあげた「半七捕物帳【続】」の解説がわかりやすいです。)

半七は文政6年(1823年 この年、シーボルトが出島に着任。)の生まれで、十九歳(天保12年。1841年。天保の改革始まる。)のときに初手柄をたて、慶応三年(1867年 明治維新の前年)で引退。原作はこの間のいろいろな時期(したがって半七の歳もいろいろ)をとりあげています。原作をお読みになった方はご存じでしょうが、維新後に、記者である「私」が「半七老人」をときどきに訪れ、半七から聞いた昔の手柄話を手帳に書き留めていたものを、さらにいま(大正になってから)発表している、という趣向です。昔はこういうことが信じられていました、とか、こういうことがありました、といった事件そのものでないことが半七老人の語り口で語られ、やがて、本筋の(第三者の視点で語られる)物語へと入っていきます。

こういった、明治の時間と江戸の時間が平行して流れ、また半七の話自体も年代を行き来するという原作の特徴を連続した時代劇で表現するのが難しいためでしょうか、彼らの「時間」を再現したテレビシリーズは寡聞にして存じません。(こういうのがあったよ、というものがあれば教えてください。)

最近作の真田広之の「新・半七捕物帳」では、三木のり平が本筋とは直接関係なく半七の頃の風俗を紹介する役を果たしていましたが、これは「半七老人」の変化した姿なのでしょう。

押しの利いた啖呵で下手人を追いつめる半七は、平次に比べするどいイメージです。
この点は、演じた役者さんにも共通したものがあるように思えます。 (もっとも、長谷川一夫は映画で平次をやってたりする。)

半七には妻・お仙、妹・お粂、の家族がいます。長谷川一夫版は、お仙との関係を全面に出し、ホームドラマのような要素があったそうです。
里見浩太朗版ではお仙はすでに死亡。真田広之版ではそれだけでなく、お粂が義妹ということになっているようです。(一人の方が本領を発揮できるのか、半七?)

原作を読むには

幸いなことに、講談社大衆文学館(文庫)に「半七捕物帳」「半七捕物帳【続】」があり、これが現在もっとも手に入りやすいと思われる。「続」のほうが、最初期の作品。なにもついてない「半七捕物帳」の方が傑作選。
なお、集英社文庫「捕物小説傑作選」に半七の第一作が収められている。(「続」にもはいってます。) これには銭形平次捕物控も一編入っているほか、有名な捕物帳が収められているのでお買い得。
フォロー情報→光文社文庫に半七捕物帳が全六巻あるそうです。木鼠の吉十郎様より情報いただきました。

神田明神下の平次

かわって、銭形平次。野村胡堂原作「銭形平次捕物控」の主人公。
半七ほど厳密な生まれ育ちがはっきりしておらず、最初(お静と一緒になる前)は、家光時代に登場したのが、じわじわと時代が新しくなり、のちには200年も下って文化・文政になってしまいます。このころの平次が私たちになじみの深い平次といえるでしょう。

恋女房のお静と家でくつろぐ平次のところへ、子分の八五郎(がらっぱち)が「てえへんだ」と飛び込んでくるのを、いってえなにがてえへんなんだ、と話半分に聞いてみると、どうやら本当に事件らしい、というのが発端で、そういう推理でいいのかどうかよく分からない推理(ごめん)で犯人を突きとめ、決めの投げ銭が相手に決まる。というのがだいたい共通したイメージのようです。
原作の平次はあまり縄をかけてしょっぴいたりしないという親分像で、銭もあまり投げてないみたいですが、映像ではやはり投げ銭は決め手です。

単独主演のテレビ時代劇で今のところもっとも長く続いた(888回)作品である、大川橋蔵の銭形平次は18年という長い間、同じ時間帯で、水戸黄門や暴れん坊将軍のようなおやすみ期間をいれることもなく続けられました。このため、銭形平次=大川橋蔵、大川橋蔵=銭形平次、のイメージはいまでも根強く残っています。
その大川橋蔵の影が残っている間に果敢にも新しい平次像に挑んだのが風間杜夫版ですが、結果的には多くの視聴者から「えーっ風間杜夫?」という反応で迎えられた…ような気がします。当時の写真を見返すと確かに平次ってこんなかもしれないねという感もあります。でも時期が非常にわるかった。
北大路版はスペシャルから、ぶつ切りのお待たせ路線で長い間かけて徐々に視聴者をならしていくとともに、北大路欣也自身も町人に近づいてきたようです…が、骨太でずいぶん鍛練を積んでいそうな平次です。推理劇としての面を強く出していました。

物書きどころから…
私が最初に見た時代劇が橋蔵平次だったかもしれません。私はカラーの時代しか知りませんが、白黒の時代からあったんですね。私が見ていた時は既にお静は香山美子さんでした。私は彼女を見ると今でも反射的に「あ、お静だ」と思ってしまいます。 それから、私が見ていた時には万七は遠藤太津朗さんでした。平次が終わった後は悪役が多かったようですが、当時はダメだけれども悪人ではない岡っ引きを演じていました。
 そういえば、あまり再放送されたという話を最近ききませんが、どうなんでしょうか。確か80年代前半ぐらいに一度古いもの(確か遠藤万七ではなかった)を昼間に再放送していたような気がしますが、それ以外は全く記憶にありません。
 あと橋蔵平次でおぼえていることは、美空ひばりが最終回にゲストで出演したことと、実は二刀流が似合っていたということでしょうか。二刀流と言えば長七郎(「長七郎天下御免」及び「長七郎江戸日記」)ですが、橋蔵平次も大捕り物の時には2本の十手を持ったり、旗本や大名相手の時には十手を返上しているので(岡っ引きはそもそも旗本や大名には手を出せませんから)下っ端の刀を奪って暴れたりしていました。([828] 高橋 -1998/10/12 Mon 16:33:37 )

中学生の頃に橋蔵平次にはまりました。
歌舞伎座まで公演も見に行きました。
おばさんの群の中で中学坊主二人(男)は,かなり浮いていたとおもいますが,数年後に亡くなってしまったので,実物の舞台を見られたのは幸せでした。
あのころは毎日夕方に平次や伝七や必殺の再放送もやっており,いい時代でした。
([827] SUGI -1998/10/12 Mon 13:10:59)

橋蔵・平次の定点観測

毎年5月の大川橋蔵・銭形平次を、新聞で追ってみました。5月に開始された為でしょうが、キャストの変更時期が5月なんですね。同局の夜7時の子供番組や裏番組がどんどん変わっていく中で、いつ見ても8時にすわっている平次、は、やはりすごいものです。→橋蔵・平次の定点観測

原作を読むには

講談社大衆文学館におさめられているのは最初期の作品で、あまり知られていない平次(あるいは胡堂)の発掘といった意味があるのではないかと思う。が、ふつーの銭形平次、を読みたい人はというと…。光文社文庫にあるようだが、未見。先に挙げた集英社文庫の「捕物小説傑作選」河出文庫の「大江戸歳時記 捕物帳傑作選」にも含まれる。(古本屋で、春夏秋冬、新年の5冊で3500円だった。それ、元の値段より高いよ。)知る人ぞ知る富士見時代小説文庫では10巻ほどある。が、これはもう普通には流通していない模様。

その日の新聞には…

過去の作品の放映当時の新聞をみていて気がついたのですが、「半七」と「平次」は、なぜか同じ曜日にあたっていることが多い。時間は、ずれているので、今日は捕物曜日、という風情だったのかもしれません。今では同じ曜日に時代劇が二つということすら難しい(お江戸でござる、を含めれば成立。)ご時世なのでちょっとうらやましいですね。


データ

2000.10.10までの判明分

KRT=現TBS、NET=現テレビ朝日

半七捕物帳
原作:岡本綺堂「半七捕物帳」

半七捕物帳
1956.5.3-1956.12.27
KRT 木曜日
中村竹弥

半七捕物帳
1960.11.4-1962.6.9
日本テレビ 土曜日 20:00-21:00
キャスト:尾上松緑、月丘千秋、佐伯徹、市川子団次
特筆事項:カラー作品。

半七捕物帳
1966.3.9-1966.7.20
1967.9.13-1968.1.24 (計40話)
TBS 水曜日 21:30-22:30
脚本:八住利雄、久保田篤人、橋田寿賀子、平岩弓枝ほか
キャスト:半七/長谷川一夫、おせん/淡島千景

半七捕物帳
1971.10.6-1972.3.29
NET 水曜日 21:00-
平幹二郎、中村玉緒

半七捕物帳
1979.4.3-1979.9.24
テレビ朝日 火曜日21:00-
尾上菊五郎

半七捕物帳
1991.10.8-1992.9.15 火曜20:00-
日本テレビ
里見浩太朗
※くわしくはこちら

新・半七捕物帳
1997.4.4-1997.8.1 金曜20:00
NHK(NHK総合)
真田広之
※詳しくはこちら

銭形平次捕物控
原作:野村胡堂「銭形平次捕物控」

銭形平次捕物控
1958.7.7-1959.6.27 (放映日要確認)
KRT
若山富三郎

銭形平次
1962.4.7-1963.6.29
TBS 土曜日 22:00-22:30
安井昌二

銭形平次(銭形平次捕物控)
1966.5.4-1984.4.3
フジテレビ 水曜日 20:00-
※1966.5.4-1969.4.30まで白黒、56分。
1969.5.7(158話)よりカラー 55分。1972.10.4より54分。
脚本:野上竜雄、下飯坂菊馬、高橋稔ほか
音楽:阿部皓哉→津島利章
主題歌:「銭形平次」(作詞)関沢新一、(作曲)安藤実親、(歌)舟木一夫、(編曲)阿部皓哉→津島利章
キャスト:平次/ 大川橋蔵、お静/八千草薫→鈴木紀子(1969.5.7(158話)-)→香山美子(1970.5.6(209話)-)、八五郎/佐々十郎→林家珍平(1967.5.3(53話)-)、三ノ輪の万七/藤尾純→遠藤辰雄(1967.5.3(53話)-)(→遠藤太津朗に改名)、笹野新三郎/神田隆、お神楽の清吉/池信一(1-760?)
その他レギュラー変遷については→橋蔵・平次の定点観測
特筆事項:
・ 「浪漫工房京都」4.5合併号(雑誌、1993.7.25 発行)の特集「大川橋蔵と京都」に全888話分のサブタイトル(脚本、監督、ゲスト、放映日、通算話数付き)と、レギュラー変遷、及びその他の知識が掲載されている。本サイトでの話数記載はこれによった。 資料提供は、サブタイトルは東映太秦映画村資料館、知識の方は遠藤太津朗氏、フジテレビとある。
・同書によれば、主題歌アレンジの変更は6回とのこと。
・「日本個性派俳優列伝 III 遠藤太津朗」(遠藤太津朗著、円尾敏郎編 ワイズ出版刊)に、遠藤太津朗氏出演分のサブタイトルが掲載されている。
・上記「浪漫工房京都」では、S45.5.5〜レギュラーの武田禎子氏の禎の字を初出時「しめす偏の旧字体におおがい」(この字、コンピュータでは出ません)で記載している。2年目から「禎子」。「遠藤太津朗」では初年度から「禎子」。

銭形平次
1987.1.13-1987.12.22
日本テレビ 火曜日 20:00-
風間杜夫
※くわしくはこちら(日テレ8時台)

銭形平次
フジテレビ 水曜日 20:00-
制作:フジテレビ、東映
企画:能村庸一、加藤貢
プロデューサー: 河野雄一、上阪久和(1,2シリーズ?)
音楽:津島利章
主題歌:「銭形平次」作詞/関沢新一、作曲/安藤実親、唄/北大路欣也
キャスト:銭形平次/北大路欣也、お静/真野あずさ、八五郎/三波豊和、三ノ輪の万七/伊東四朗、 並木等兵衛/中村梅之助、菊村数馬/丹羽貞仁、清吉/山西道広、保科源次郎/三浦浩一、藤田勇之進/伊東貴明 、笹野新三郎/神山繁
第1シリーズ 1991.5.29-1991.10.2 18話
脚本 :大野靖子(1,4)、保利吉紀(2)、ちゃき克彰(3)、野上龍雄(5) (…)
監督:齋藤光正(1,2、上杉尚祺(3,5)、原田雄一(4)、(…)
備考:テレビジョンドラマ平成3年12月号
第2シリーズ 1992.7.15-1992.11.25 17話
第3シリーズ 1993.5.29-1993.11.10
第4シリーズ 1994.7.27-1994.12.14
第5シリーズ 1995.3.8-1995.7.12
第6シリーズ 1997.7.23-1997.9.3 5話 ※参照(97年の時代劇)
プロデューサー:遠藤龍之介(フジテレビ)、上坂久和、児島雄嗣(東映)
脚本:大野靖子、安部徹郎、日暮裕一、野上龍雄、永原秀一
監督:齋藤光正、鈴木秀雄、上杉尚祺、原田雄一
1998.1.28-1998.2.25 5話(雑誌等では「銭形平次ファイナル」)


参考文献・参考サイト
(番号は当サイト内で使用している統一の番号です。番号が飛んだりしているのは、そのためです。)
(1) QA 1997年7月号 [雑誌]
(2) アサヒグラフ増刊 3.15(昭和53年 朝日新聞社)[雑誌]
(3) 季刊テレビジョンドラマ [雑誌]
(7) ノスタルジックTVグラフ3 時代劇解体新書
(ノスタルジックTV倶楽部編、メディアファクトリー刊) [単行本(mook)]
(8)東映テレビ制作部[WWW]
(17)蔵出し 絶品TV時代劇
(近藤ゆたか編、フィルムアート社刊 1997)[単行本]
(20)みんなのテレビ時代劇(1998 アスペクト刊)[単行本]
(24)時代小説のヒーローたち展(1997 世田谷文学館)
(未採番)半七捕物帳【続】(講談社大衆文学館 1997 講談社刊)[文庫本]
(未採番)銭形平次・青春編(講談社大衆文学館 1996 講談社刊)[文庫本]
(21)東映京都テレビ映画25年(1982 東映京都スタジオ)
(未採番)日本個性派俳優列伝 III 遠藤太津朗(2000 遠藤太津朗著、円尾敏郎編 ワイズ出版刊) [単行本]
(未採番)浪漫工房京都 4・5合併号 (1993 創作工房)[雑誌]


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junjuns@geocities.co.jp

Last modified: MON Oct 10 23:38:21 2000