暴れん坊将軍とともに |
第二部「初期劇伴の世界」(未稿)
便宜上「吉宗評判記 暴れん坊将軍」を I、通算9作目を IX と表記します。 他の作品は、「暴れん坊将軍」の添字II から VIII までのローマ数字で表します。
名前の付いていない曲を文章だけでどの曲かわかってもらうのはむずかしいので、各曲のさわりの楽譜をピアノロール譜で示す場合があります。これは、音の高さと長さを目で見て分かる方法で表現するためです。線の一本一本がひとつの音で、上に書いてあるほど高い音、線の長さが長いほど長い音です。曲は左から右に向かって進んでゆきます。縦線は小節の区切りです。
音の高さは上がってる下がってるがわかってもらう程度で構いませんので、音名は記しません。
リズムがわかりにくいと思うので、だいたいのリズムの感じを、文字で表現したものをピアノロール譜の下に表記します。コーラスがある場合はコーラスの発音を表記します。また、楽譜の方が読みやすい人のために、自分の家にあるテープの音から採譜した五線譜をそばに示します。保存されていたテープのコンディションや、再生スピードなどの関係で、元の音楽のマスターや放映時の音程、テンポとは違っている可能性もあります。
なお、楽譜を載せること自体にはいろいろご意見があると思いますが、著作権法上の正当な引用の範囲で、楽譜が主にならないように掲載しているつもりです。
現在、筆者のところにIV,V,VIIIのビデオ・録音等がありません。このため、該当部分に「(資料なし)」として具体的記述をしていない部分、および、放映当時のメモなどに基づいて記述している部分があります。もし再放送などで入手ができれば、記述を追加する予定です。ご了承ください。
暴れん坊将軍の放映開始は昭和53年(1978年)。
この年は日本でのテレビ放送開始から25年にあたる。
そのころ、時代劇枠自体が5年前の半分に減少していた。
必殺シリーズは長寿シリーズの宿命として血液交換の必要を迫られていた。
大河ドラマは、はじめて素性のしれない一商人の物語を取りあげ、その裏番組では渡哲也の浮浪雲がキセルをふかしていた。
一方、同心ものの江戸の旋風は好調。
そう。もはや木枯し紋次郎や、子連れ狼は去ろうとしていた。
世間が時代劇に血生臭い非情さを求めなくなったそのころ、「若い吉宗」は江戸にやってきた。
土曜の8時の時代劇。この枠は以前からテレビ朝日(元のNET)にあった。
あったんだけどさ…。裏が大変だったのだ。ほかでもない、ザ・ドリフターズの「8時だよ!全員集合」。
ところが、暴れん坊将軍はその逆風に負けず思いがけず続いた。思いがけず、は作った人に失礼かもしれないが。
ちょっとほおのこけた、はにかんだような笑顔のステキな新進俳優のお兄さんはたしかに時代劇スター顔だった。しかし、抑揚のあるのかないのか分からないしゃべり方で、ちゃんばらもうまくないし、馬に乗れば、振り落とされそうである。
素材も、原作がなく、講談で有名なストーリーと言うわけでもない。わりあい目新しいものである。
でも、続いた。実際、最初の視聴率はひと桁台だったそうである。しかしやがて視聴率は上がり出す。それを待つだけの「長い目」が当時はあったということだろう。
ともかく「吉宗評判記(かかーーん) 暴れん坊将軍」というオープニングとともに4年続いて、暴れん坊将軍はひとまず終了する。
ところが。再び、ところが、だ。吉宗はすぐ帰ってきた。「(ぱからっぱからっぱからっ…かかーん)暴れん坊将軍」。画面には II とでる。第二シリーズの幕開きである。
そして、そして、III, IV, V, .... あれよあれよといううちに VIII まで。おお、「暴れん坊将軍X」はもうすぐじゃないか、と思っていた矢先、9作目はタイトルからローマ数字が消えた。なんだい、なんだい、楽しみにしてたのにひどいじゃないか。
しかも木曜日になっちまって。7時だって?いったいどういうことなんだい。
新さん、あたしゃそんなのみとめないからね。(春川ますみの声でどうぞ。)
……私憤はさておき。
暴れん坊将軍の歴史は既に20年を数えている。
回数は800回に着々と近づいている…らしい。数えたことない。
休み期間なく続いた、あの大川橋蔵の銭形平次が、18年。888回
忘れた頃に帰ってくる加藤剛の大岡越前が30年。400回超。
水戸黄門?あれは黄門様が変わってるでしょう。長いように見えても、ひとりで主役を続けているのとは勘定が違うの。…おじいさんだから30年続けろって言ってもムリだけど。
話を戻す。今は追いついていなくても、マツケンはまだ若い。(時代劇スターのなかでは若いのだ。)いずれは、これらの時代劇と肩を並べ、伝説となるだろう。
さて、その20年の間にはいろんなものが変わっている。
暴れん坊将軍は、馬にのった将軍のオープニングで始まり、新さん(実は吉宗)がいて、め組に居候していて、頭がいて、おかみさんがいて、爺がいて、忠相がいて、旗本がわるいことをしていて、ときどき尾張の殿さまが裏で糸を引いている、というような「世界」を I や II のころに手に入れた。
そして III に入るそのときに、暴れん坊将軍は、自らの長寿を支える恐るべき手法を編み出した。
自身の世界を踏み外さないようにしながら、メインの役者をごっそり入れ替え、その他大勢の背景を一新し、それまでの経緯をさっぱりと忘れるのである。その前と後では、まるでパラレルワールド。たしかに似ているんだけど、各世界の住人は、別の世界の住人のことを知らない。見ている方は大変寂しい。しかし、何回かそうした細胞の入れ替えをしながら、暴れん坊将軍は生き延びてきたのだ。
さて、そろそろ音楽の話をしようか。
暴れん坊将軍のようなワンパターン時代劇(でも、はじめからそうだったわけじゃないよ)が、Iのように長い期間続くと、それだけでもある程度の音楽世界が確立されてしまう。この場合、作る側が世界を作ろうとしているだけでなく、受け取る側が音楽をおぼえ、音楽とシーンの内容を結びつけてしまうからだ。
そういうおぼえてしまった音楽を変えられると、見る側としては、どうも音楽が違う、という違和感がでてきてしまって厄介である。
それでも、変わるときは変わる。そうキャストと同じように。
では、音楽のパラレルワールドを覗いてみることにしよう。
あとで説明に必要になるので、主題曲のメロディーを4小節毎に部分わけして、部分部分に名前を付けておこう。同じようなメロディーには(A)と(A')のような名前を付ける。イントロは別に分けて考える。
すると、テーマ曲は、
イントロ、(A)、(A')、(B)、(B')、(A'')、(A''')
という感じになる。
なに?ちょぴっと難しく見える? 大丈夫歌えばわかります。
イントロからならべてみるので、想像していっしょに歌ってみて。…あ、声は出さなくてもいいです。特に電車の中でモバイルされてる方は、ぐっとこらえてください。
さて、どれがどの部分か対応つけられただろうか。(A)と(A'')は同じメロディーだが、伴奏が変わることがあるので別の記号にしてある。
このメロディー、時代劇の曲なので無条件に「日本的である」と思いこんでいる人もいるかもしれないが、純邦楽的な曲ではない。似ているとすればロシア民謡あたりだろうか。
それでは、各シリーズを見ていこう。
これがすべての暴れん坊将軍テーマ、およびテーマアレンジ曲の親だ。(当たり前か。)
最近の主題曲に慣れていると、Iのやさしさ、おおらかさに驚かれる方もあるかもしれない。
そして(B)に入る瞬間、そこまでの「たーんたたんたん」というゆったりしたリズムから、ストリングスの上昇をつなぎにシンコペーションの強い動きのあるリズムへといきなり変わる部分。この目の前に平原がひらけたような印象は、後のどのシリーズにもまさる名アレンジ、名演奏であると思っている。ベースの動きもいきいきしている。
さて、暴れん坊将軍の主題曲とメロディーラインが非常によく似ている曲に「銀河大戦」の「勇者よ銀河を渡れ」がある。
ところが、できあがった曲を聴いた印象はずいぶん違う。
特にIと銀河大戦は、よい比較材料である。
銀河大戦は、非常に無骨な曲である。4拍子の各拍の頭がはっきりしていて、重く、男性的である。また、小節と小節の間が「おぅおぅ」というかけ声で途切れている。このために、一歩一歩確実に踏みしめて進む感じになっている。
暴れん坊将軍の方は、1拍1拍をそれぞれ感じて進むのではなく、ひとかたまりのメロディーが途切れずに大きな流れとなって進む。すこし突っ込んでみてみると、(A)系の部分のアレンジは、4拍ずつで完結するのではなく、2拍ずつがかたまりになって2拍子的な進行をしているように思う。2拍子は4拍子ほど安定していなくて、絶えず次の2拍、次の2拍を呼ぶようなところがある。
なわけで、このメロディーも、次へ次へと進もうとする力が強い。
また、伴奏の各楽器も「1、2、3、4、1、2、3、4」または「1、2、1、2」という軍隊のような歩みをしないでなめらかに進んでいる。
フレーズとフレーズの間は、ストリングス(弦楽器群)・木管のスケール(連続した音の上がり下がり)や、小節をまたがったティンパニで橋渡ししている。これらは決して曲を止めに入るのではなく、次のメロディーへの推進力となっている。
このような、絶えず前へ前へと曲を進めてゆくところには、ゲッターロボやキャシャーンに通ずるものがある。
しかし、暴れん坊将軍には、あの独特のせき立てられるようなめまぐるしさはない。
そこがこの曲の不思議なところだ。
その前進力を生むのは「流れ」である。これがIのキーワードかもしれない。
1年ほど前になるか、暴れん坊将軍の主題曲を、Iから要所要所ピックアップして幾人かで聴いたことがある。
IIを聴いたときの、ある人の評がふるっている。「暴れん坊将軍じゃなくて暴れ馬だな。」
I,III の雰囲気はよく似ているのだが、このIIはかなり印象が違っている。
メインのメロディーがブラス(金管楽器。ラッパのたぐい)になっているのをはじめ、バックの主要な伴奏もブラス。
ジェントルでクラシカルだったIに比べると、うるさい。あ…すいませんね、乱暴な表現で。
(A)から(A')に移るときの、合いの手「ぱーらんぱーらん」や、
(B')から(A'')への橋渡しをする「ばーっばーっばっ、ばばっばっ」というフレーズもたいそう威勢がいい。
そのへんが「暴れ馬」たるゆえんだろう。
リズムの取り方はどことなく角張っている。I(III-VIIも)では(A)系の部分では「たーんたたんたん」というゆったりリズムが基本だったが、IIでは、「たんたんたんたったっ」という動きである。これが勇ましさを倍増させている。
A''の背景で別に展開している中音ブラスの旋律(対旋律)は聞き所。
というわけでIIのキーワードは「ブラス」。
手元のIIIの録音とIVの録音は少し違っているような気がする。IVの方にははっきりとギターの音が入っている。IIIでは、よくききとれない。
IV,V,VI,VII の違いは私の耳では判断できない。
ということでまとめて一項としてみた。☆CD「傑作TVシリーズ暴れん坊将軍 Vol.1」のトラック1に収録されている「旧オープニング曲」が、おそらくこれである。
IIIというのは、暴れん坊将軍の歴史上、大転換がおこなわれた時期である。
加納の爺を演じていた有島一郎氏の死去が呼び水になったのかどうかわからないが、新しい爺(田之倉孫兵衛)役に船越英二、おさい(辰五郎の妻)に浅茅陽子というキャスト変更のほか、竜虎と、め組のメンバーを白紙にし新メンバーに入れ替え、おまちの代わりに、半次郎の妹お葉が登場したりしている。とにかく、上様、辰五郎、忠相、以外のメンバー総入れ替えの感がある。
音楽もしかり。 今回III以降の劇伴については詳しく述べないつもりなので、ここで少し書いておく。
IIIでは、以前に多用されていたコミカルでほのぼのしたコーラス曲などは、姿を消したようにみえる。
音がよりかっきりし、 テンポが速めの曲ではリズムパートが軽い感じになった。全体的には、以前漂っていた日本民謡風ののどかさよりも、「演歌」に近くなったかもしれない。
もっとも、音楽は総入れ替えになったわけではなく、 Iから使われていたような曲も要所要所に残っている。生き残った曲の特徴は、シリアス、または、お涙頂戴、といった比較的メロディアスで暗めのものである。コーラス曲も、ほとんど消えてしまったが、こういった傾向の曲だけが生き残った。
ドラマ自体を見るとIIIはI,IIに比べて、吉宗>新さん、という印象になっている。より威厳があり、お友達感覚が喪失しているのだ。め組やお庭番たちとの距離もずっとあるように思う。半次郎たちは、将軍様に対する愚痴を頻繁にこぼしたりして、なんだか暗い。
その印象の変化は、音楽から独特の「ほのぼのムード」 が消えたことも関係しているのだろうと思う。
さて、テーマ曲に話を戻す。
放映開始当時これを聞いたときの第一印象は「軽い」であった。
構成は基本的にIに近い。メロディーはIに比べると伸ばしの長さなどにゆれが少ないかわりに、たっぷり感が減った。
大きく変わったのは、 最後の部分。メロディーの終わりの音の伸ばしではなく、後奏がついた。
これだけで、ずいぶん「変わったー」という感じがする。
実際の放映では、このあとにすぐスポンサー紹介になり、ここでは、ゆっくりしたテーマのメロディーが流れていた。
A部分では、金管の対旋律(先ほど出てますが、裏で主旋律とは別の動きをしているメロディーのこと)が美しい。A'',A'''ではフルート・ピッコロの合いの手が、時折聞こえる鳥のさえずり、といった感。
III以外では、うんちゃかちゃかちゃか、うんちゃかちゃかちゃか、という感じのギターが終始めだっている。
IIIのキーワードは…そうね。「新生」。
長寿番組やリメイク番組の新バージョンテーマ曲は、テンポが速くなり、リズムが正確になり、軽快にきれいになる…ような気がしている。
このバージョンも、そういう傾向があるかもしれない。
ともかく、ちょいちょいレギュラー入れ替えなどしながらも、辰五郎・爺・忠相の布陣は変わらないまま、大体同じように番組が続き、テーマ曲も特に変わらずにVIIを終了することになる。 「新生」はすでに「定着」と化した。
IVからVIIまでの間の本編での変化について若干補足しておく。
IV,V→基本的にIIIの設定を継承している。IVでは小頭が渡辺篤史、Vでは小野ヤスシ。
VI,VII→おさい役が坂口良子になる。小頭は三遊亭楽太郎。VIIで後にめ組のおかみさんにおさまってしまう魚屋のおぶんが登場している。
お庭番の変遷については、別稿「暴れん坊将軍のお庭番」(Junjun's [JIDAIGEKI or SO] 内)を参照されたい。
VIIIというお話は、それはもう、異色中の異色。
シリーズを貫くのが、吉宗のラブストーリーなのである。上様の正室候補である鶴姫と吉宗、お互いに身分を隠したまま(というか、吉宗の方は全部わかっているのだが)寺子屋の先生である千鶴と徳田新之助という二重の関係になっており、新さんのことが好きになった千鶴(鶴姫)はそれを貫くために、吉宗との縁談を辞退しようとしたりするのだが…。この決着は、ぜひ本編を見てほしい。
しかし、それより大変だったのは、またも出ましたレギュラー総入れ替え。しかも今回は、北島三郎の辰五郎夫婦が勇退し、後釜には、なんとびっくりジョージ山本。前作で登場の女魚屋がそのおかみさんに収まってしまった。爺は高嶋忠夫に、大岡忠相役も変わって田村亮となった。ついでに言うと、ときどき悪巧みをしている尾張の徳川宗春も長年なじんだ中尾彬から西岡徳馬へバトンタッチ。
これで、I以来のレギュラーは姿を消した。
変わらないのは、松平健の吉宗だけだ。
で、こういう大変革のあるときは、テーマ曲も変わるものらしい。
冒頭、葵の御紋をバックにかけてくる馬上の吉宗。今までは、この部分は蹄の音にティンパニがかぶさるだけだったのだが、ここに音楽がついた。全音符の伸ばしが4音ほどあって、この上昇のしかたがなぜだか不安感をあおるのであった。
そしてちゃちゃちゃーちゃーちゃー、と、以前のイントロの後半分だけとってきたようなイントロ。
その後(A)のメロディーにはいるが、テンポがはやく、はずむような雰囲気で、最初からいきなり殺陣にはいったような気分。(画面でも上様がいきなりチャンバラをしてるが、よく合っている。)ベースは「ぶーん(ん)ぶんぶぶ」で、ここに「(うん)ぱっ(ん)ぱ(んん)」というブラスの合いの手が入る。併せて聞くと、I,III-VIIの基本的な動き「たーんたたんたん」とIIの「たんたんたんたったっ」の折衷風に聞こえる。
(B)部分のメロディーはトランペット中心。1音1音を短めに演奏していて歯切れがよい。
(A'')では、IIのときのブラスの対旋律が復活している。
そして後奏では、以前予告編のラストに使われていたメロディーが入っている。これ聞くと「どうぞお楽しみに」と言いたくなってしまう。
VIIIは、「いいとこどり」。こう書くと、いかにも、以前のネタを転がしましたみたいに思われそうだが、スピーディーでノリがよくココロ弾む名曲である。
IXである。念のため。
番組は、ここで、やや原点がえりする。吉宗がどうやって城を抜け出してくるのか、このオープニング映像で知った、という人もいるだろう。うんと初期のころは、城抜け出しもひとつのイベントとして律義におこなわれていたのだが、次第になくなったようだ。松金よね子の加入で、ながらく不在だった春川ますみ的「おばちゃん」風味も復活し、ドラマににぎやかなドタバタ感が戻った。
前作でファンになった人は、鶴姫がいない、と言って困惑していたが、これが普通なんだからしょうがない。
さて、 一方で原点に返りながら、他方では大変なことが起こってもいた。
このシリーズが始まったとき92%くらいの方が、「は?」くちをあんぐり、という状況に陥ったのではないだろうか。上様がやってくるけど、テーマ音楽はなにかとても急いでいるようだ。そして、10小節余り演奏したところで、サブちゃんの歌に突入してしまうのである。えっ、いまのは、なに?……、ええっサブちゃんの歌のイントロ扱いですか????
(ちなみにエンディングはないので、サブちゃんの歌に始まってサブちゃんの歌に終わるわけではあーりません。)
さらに、事件はエスカレートした。20年体に染み付いた放映時間帯が、土曜20:00から木曜19:00に変更されたのである。どっひゃー。暴れん坊将軍もこのシリーズで終わりか、などという根拠のない不安を訴える人が出てきたのも近年にないことである。しかし東映も健サマも、まだやる気らしい。
というわけで10小節余りしかないのだが、曲について述べる。
テンポはオープニングにしてはかなり速い。1分間に147拍くらい。これで10小節(40拍)というのは秒数にして16秒くらい。メロディーは冒頭から短いティンパニの響きを合図にトランペットがいきなり(A),(A')を演奏。合間にぴろりろぴろりろとフルートが入る。この動きの忙しさがまた、上様相当お急ぎのご様子、といった感じ。勇ましすぎるくらい勇ましいティンパニが乱れ打ち…とは言わないだろうが、相当けたたましく「だんだだんだだ」(不規則なのでリズムはいろいろ)と終始鳴り響いている。そしてフルートの駆け上がりで、ブラスが「ちゃっちゃー※ちゃっちゃー」と鳴ったところで、いつものイントロに入り、ナレーション「暴れん坊将軍」がかぶさる。「※」と書いた部分の中途半端な途切れ具合がちょっと気になる。「ちゃっちゃー※ちゃっちゃー」の部分はつながり的には(B)の最後の部分の「ちゃーらーーちゃらららー」がきて欲しい気がする。それには「※」のところに少なくともあと3音くらい欲しい、と思っちゃうのである。「※」の部分は本当になにもないんだろうか。なんだか気になる。
ところで今後ずーっとこうなのだろうか。このつくりだと、暴れん坊将軍主題曲の基本形がどういうものなのかわからない。すると、暴れん坊将軍の曲をフルサイズで歌えない世代が生まれてくるわけだ。こ、これは、ゆゆしき事態なのでは…。
「暴れ馬」の名言を残したある人は、こんなことも言っていた。「暴れん坊将軍の主題曲はどんどん軽くなっている。最初はセブンスターで、それがマイルドセブンになって、マイルドセブンスーパーライトになったんだよ。次はどうなるんだろうな。テクノだったらいやだな。ぴこぴこぴこぴこ…」うわあ、それはいやだー。
当時はIXの放映前だった。IXは、テクノではなかったが、めまいがするほど驚いたことになっていたのは事実である。
暴れん坊将軍の主題曲はIIIからVIIの間変わらなかった。この間は番組に大きな変革がなかった時期でもある。逆にIIIになったとき、また、VIII,IXになったとき、には音楽も、番組自体も大きな転機を迎えている。番組の方にあんまり変わられると困るが、OPがずーっとサブちゃんなのもアレなので、主題曲だけ都合よく復活してくれるとうれしい、と思う。
定番曲について、続ける。
CM前とCM後に上様が馬に乗った絵(あるいは、上様が弓を引く絵など)がでる。あれのことをアイキャッチという。
あの部分で流れる短い音楽。基本的には、主題曲のメロディー冒頭部分の変形である。が、III以降のものはそう思って聞かないとそう聞こえないくらい変形している。
主題曲のイメージを強く残す。オーケストラで勇ましく。
Iとほとんど同じだが、最後の音がオクターブ高い
I,IIよりも華やかである。2音目は弱いので「ちゃかちゃちゃー」の部分は「ちゃっちゃちゃー」のように聞こえる。すると、主題歌冒頭の音の高低になっているのがわかる。終わり方は弾むように切れて、アレ?、こんなとこで終わり?という印象をうける。IIIで初めて聞いたときに、すごくヘン、と思ったのだが、このアイキャッチ、意外に長寿である。
3種類とも真ん中のあたりにある三連符の音が同じになっている。ここの遺伝情報は変異せずに伝わったらしい。
基本的に予告CMも予告編と同じものが使われていたと思う。主題曲そのまま、またはアレンジ曲が使われている。再放送では予告編がカットされてしまうため、手元にあまり実物がないので、あるものだけですみません。
イントロなしのオープニングの曲ほとんどそのまま。(A'')の部分をはしょって少し短くなっている。この当時の予告編は結構長かったのです。
イントロなしのオープニングメロディーの少しテンポの速いもの。「みどれみどれみどれみしそらー」の結びが入る。(移動ド。実音はG Es F ....)
で、この部分のメロディーがVIIIのオープニングの最後に挿入されている。
なお、CMには短いバージョンもある。
(A),(A'')のメロディーをトランペットで。バックの伴奏は、じゃんっ、じゃんっ、と小節の頭を強調する勇まし系。
IXは、エンディングがないだけでなく、予告編もすごく短いのである。本編が終わるとすぐにこの予告があって、あっという間に終わって、すぐ「提供」。余韻もなにもあったもんではない。
チャンバラは、基本的に
イントロ(A)(A')(C)(D)(A)(A'')(E)(E')イントロ(A)(A'')
の形であるが、楽器の構成が変わったりするので、(A''')〜(A''''')まで区別を付けた。放映時にはシーンの伸び縮みによって、いろいろな形にカットされたり、リピートされたりする。カットされる場合は、繰り返し部分の(A)の省略が多い。(A)系は主題曲のメロディーと同様。(C)(D)はメロディーがだいぶ違うものの(B)(B')の変形と見ることもできる。(D)の最後は(B')の雰囲気に近い。(E)はチャンバラ特有の間奏である。
曲がここまで有名だと説明するのも野暮なのでどうしようかなー。テレビで使用される場合のテンポは1分間に152拍から154拍程度。かなり速いのだが、それほど速いぞーーという感じはしない。ちきちきちきちき、というスネア&シンバルよりもベース(種類がわからないが、電子オルガンの足下のペダルを踏むとこんな音が出るぞ、という風なベース)、「ぶーんぶぶーんぶ」というのが前面に出て聞こえる。Iの主題曲でのベースの聞こえ方がこれに似ている。ストリングス中心のオーケストラで、(A)(A')ではストリングスが主役で金管が合いの手、(C)(D)では金管が主役で木管が合いの手、(A'')(A''')では、両方がメロディーを奏でるという風になっている。
(E)ではかなり目立っているのだが、他の部分でも後ろの方でかすかに電子オルガンのようなビブラートのかかった音(うーん仮面ライダー)が鳴っている。これは、この曲を柔らかな印象にするのに一役買っている。
この曲についてはメールマガジン「空想音楽堂かわら版」に書いたので、その記述を引く。
「それ以前のものと構成は同じだが、テンポが速く、ベースよりも、ちきちきいうドラムセットのシンバルやスネアドラムの音が目立つようになり、全体的にはきはきした印象になっている。 先に挙げたイントロをトランペットやストリングスが高らかにぶちかました後、ずんたたずんたた、というリズムにのって、ストリングスがテーマ曲のメロディーを奏でる。約束どおり、ブラスが合いの手を入れる。テンポは1分間に160拍。速い。ちきちきちきちき。ずんたたずんたた。これが正確に刻まれる。」
役割分担等はI,IIの時と同じようなのだが、こっちの方がそれぞれの仕事をきっちり別々にこなしていますーという雰囲気で、堅い。余計(というと語弊があるが)な音が鳴っていないからなのだろう。
☆CD「傑作TVシリーズ暴れん坊将軍 Vol.1」のトラック30に収録されている「IIII43」が、おそらくこれである。IIIIってなんだろう…。…こんな数字ねーよ、なわけだが、たぶんIII用の新作だったのだろう。同じ頭文字の曲が他に収録されていないということは、この時期に録音された音楽はあまり生き残らなかったということだろうか。同じ時期には、新しいめ組のテーマ曲(私がいま勝手に命名)などがあったと思う。そういえば最近聞かないか。
(資料なし) イントロなしでいきなり核心に入るようだ。やっぱりイントロがないとはじまるぞーー、という感じがしないので、不評。IXではまた、イントロありに戻っている。
菊池俊輔作品ではないが、これがないと終わらないので一応示しておく。
EDは、だいたい、「だんっだかだ だんっだかだ だんっだかだ だっだっ」式の、男気あふれる(?)演歌。
IX・OPの「未来」はサブちゃんの有名曲「祭」ににたダイナミックな曲。
毎回同じ位置で同じように鳴っている定番曲をいくつか見てきた。いくらパラレルワールドだといって、なにかかにか変わらない線というものはあるはずだ。暴れん坊将軍DNAみたいなものがきっとある。と思いながら聴き進めてきたのだが、IXのオープニング大幅カット、エンディング消滅事件は相当ショックだった。主題曲がなくても暴れん坊将軍は始まっちゃうのである。慣れるとあの(サブちゃんの)オープニングも結構いいね、という声も聞かれた。確かにあのサブちゃんの曲はダイナミックで力のわいてくるいい曲だ。でも…。でもね…。
一方でチャンバラの曲は元の形に復帰している。みんなが携帯電話の着メロにしたがるのは、なにを隠そうチャンバラの曲である。もちろんあのイントロ付きでね。イントロがなかったらチャンバラにならないもの。
それってどういうことだろう。変えてはいけない暴れん坊将軍の顔…つまり松平健……いや、マツケンではちょっとニュアンスが違うか……言いたいことは要するに「印籠」である。上様が「余の顔を見忘れたか」といい「成敗」というその線にあたるものは、音楽の世界ではどうやらオープニングやエンディングではなかったのだ。「余の顔を見忘れたか」かちゃっ「成敗」というまさにそのシーンにかかる音楽が、暴れん坊将軍の音楽的「顔」になってしまったのではないだろうか。
たとえ、爺が何人変わり、おかみさんが代替わりし、オープニングが演歌になり、死んだお庭番がすぐに忘れられても、松平健の上様があの音楽にのってチャンバラしている限り、それは暴れん坊将軍。
暴れん坊将軍を見つづけるには、そんなドライな割り切りも必要なのである。
…ほんとは、死んだ人のコトだって覚えていて欲しいし、古い音楽のことも覚えていて欲しいけどね。
Last modified: Wed Dec 8 23:58:00 1999