テレビの放送開始から10年あまりを経て、テレビが家庭へと定着し始めた頃。白黒からカラーへと時代が変わりゆくそのころ。陽気な二人連れが、風の吹くまま気の向くまま、角の丸いブラウン管を旅してゆきました。
データ関係の情報は、データ提供専用掲示板、またはメールで、そのほかの情報は物書きどころ、またはメールでどうぞ。
この作品に関しては、(も?)、私は完全に遅れてきた人間であるといえる。
近衛十四郎という人物についても現役で活躍している姿を知らない。
ほんの少しの違いなのだ。でも、就学前の子供の3年や4年というのはとても大きい。
これでも家には白黒テレビがあったし、白黒の再放送もまだいくらかやっていたのを覚えている。しかし、時代劇の記憶はない。
仕方がないので、聞き書き、抜き書き、受け売りをかき集めて、近衛十四郎の…多分最後の輝きだった時代を追ってみようと思う。
もうね、全部伝聞ですみません。
いろいろ眺めてみたところ、
素浪人月影兵庫というのは、月影兵庫と焼津の半次の二人が旅をしていて、旅先で人助けをするみたいなんだな。
焼津の半次は曲がったことは床の間の掛け軸でも大嫌い。刀も反りがなくてまっつぐ。そんで蜘蛛が苦手。
月影兵庫は猫が嫌い。
この二人がコミカルなやりとりを続けながら旅してゆく。んでもいざというとき、月影兵庫はめちゃくちゃ強い。
で、
月影の旦那は、お城の跡取りで(ぜんぜん「素」浪人でもなんでもないじゃんか)、こういういきさつ(注:よそのサイトです。)で半次と別れるんですが、「蔵出し」(参考文献)に書いてあるようないきさつで瓜二つの花山大吉と出会い、まったく同じような旅を続けるんだそうであります。
花山大吉は、おからが大好き。驚くと(立ち回り中でも)しゃっくりが出ちゃう。
データにあるように、花山大吉は2クール目からカラーになります。日本の地上波では白黒の作品は再放送に恵まれないため、花山大吉の方のイメージが定着したようです。(それでも、リアルタイムで見ていた人には、月影兵庫を推す声があるようです。)
途中から女性を加えて三人旅になり、 素浪人天下太平、いただき勘兵衛、ではこのパターンを踏襲した模様。
(この2作については、物書きどころの過去ログ[1566] (過去の記録51にあります)をごらんください。)
素浪人天下太平では、主人公にしかわからない天の声(OPでアニメの鳥として描写)と主人公との会話があったそうな。
いただき勘兵衛では、相棒と女性のほかに「貧乏神」さん(吉田義男だそうな)がついてくるんだそうです。
「花山」の中断は、近衛十四郎の体調不良によるものらしく、天下太平、いただき勘兵衛で復帰したものの、以前のようなキレがなかったと言われています。
殺陣が大きな売りだった近衛十四郎にとって、その衰えは魅力の半減だったのかもしれません。しかし昭和40年代後期〜最晩年の近衛十四郎の演技の自然さを推す声もあります。
ところで、原作の「月影兵庫聞書抄」(S33-34南條範夫) と、村上弘明主演の「月影兵庫あばれ旅」は近衛十四郎主演作とは、だいぶ違う(全然違う?)らしいです。
近衛十四郎 1916-1977。
近衛十四郎という人を語るとき、かならずあげられるのが、「柳生武芸帳」シリーズであり、その太刀さばきである。でも、この人のデビューは、その25年も前。東映の前にも大都や松竹で100本以上出ている。1960年に東映に映ってきて出演した「柳生」は40代半ば以降の作品である。
時代劇スタアというと、橋蔵や錦ちゃんの若武者姿などを想像してしまうので、それを考えると、すこし、あれれ、と思う。ずいぶんおじさんだなあ、なんて。
まあ、考えれば分かる。同じ頃息子の松方弘樹がすでに映画に出ているし、目黒祐樹もすでに風小僧である。近衛十四郎という人、私からすれば、おじいさん、の世代なのだ。
そのころの近衛十四郎は、たぶん今の松方弘樹か少し若いくらいのポジションくらいを想像すればよいのだろう。当時は映画から時代劇が消え、テレビへと映ってゆくターニングポイント。
近衛十四郎、品川隆二、が「素浪人」という舞台へそろったのもそういう時代の反映であろう。
そんなわけで、近衛十四郎、若くはない。でも。人は、「柳生」を引き合いに出してこういう。その速さ、迫真、殺陣についてこの人の右に出るものはいない、と。(すると、もっと若い頃はいったいどんなに速く、豪快であったのか)
そして、「素浪人」でもその殺陣が魅力だったと。
全く意図せずに手にした(家族が買ってきたので)hige(ひげじゃないです。ハイジーだそうです。)という…多分アニメの…雑誌の0号に、古今の殺陣について書かれた長い文章がある。大地丙太郎監督(「十兵衛ちゃん」などのアニメの監督)の作品の殺陣、を語るためにとにかくいろいろな殺陣を引っぱり出した文章なのだが、それがのっけから近衛十四郎である。
少し引用する。
「彼を全国の人気者にした『素浪人』シリーズは異常なまでにコミカル描写が多く、相棒の渡世人・焼津の半次(品川隆二)とのハイテンションなギャグの掛け合いが放映時間の大半を占める、ほとんど『すごいよ!!マサルさん』状態の番組と言われているが、当時の視聴者は一様に、ラストをきっちりしめる近衛のチャンバラが最高の見所だったと語る。」
(本当はその後が実に「柳生」のチャンバラが見たくなる文章なのだが、あんまり引用しても悪いので、買って読んでください。1999.11月発売)
物書きどころからも、1つ引用する。
「月影兵庫や花山大吉お子どもだった私でも面白く見れたのはやっぱりあんなに 強い人が猫を怖がって逃げ出したり焼津の半次はクモが怖かったりとかがあったからだと思います。
で、何といっても近衛様のあの立ち回り姿の素敵なこと!!私は時代劇に特に詳しい訳では ありませんが立ち回りに関しては一番素晴らしいんではないかと思っています。実際に剣道の 真剣も使われたと聞いたことがあります。あのはく力 あの速さ!右に出る者はいないのでは?」
[2293] ひろちゃん -1999/10/30 Sat 17:51:38
どうだろう?
同じ印象をうけないだろうか。言葉は違うが言ってることは同じ。
ちなみに「蔵出し」(詳しくは参考文献欄)でも、猫嫌いのだんな(月影兵庫の方)と蜘蛛嫌いの半次のコミカルなやりとりと、戦うときには別人のようにかっこいい兵庫という二面性のすばらしさをあげている。
そうなんだなあ。素浪人花山大吉(もしくは月影兵庫)の印象を文献から抜き出すと、だんなと半次のやりとりの面白さと、近衛十四郎の殺陣のすばらしさ、に二極分解してしまうようなんだな。しかも、そのどちらか、というよりも、どちらもをあげていて、そのギャップが魅力らしい。
とにかく、みんながみんなそういう感想・印象を持っているということに驚く。
よっぽどほかの印象を持ちようがない作品だったということだろうか。
想像しようにもどう想像したらいいかわからないのだが、「コミカル」の方はかなりすごかったらしい。
「男泣きTVランド」では、焼津の半次に対してピーウィーハーマンを引き合いに出している。マサルさんにピーウィー、とは、並みではない。
(どっちも知らない人もいるだろうが、どっちも相当「変」である。)
それが、コミカルを半次がみんな引き受けてるんじゃなくて、旦那の方もかなりキていたらしい。
愉快な旦那の魅力の一端は、近衛十四郎自信のお人柄もあったようだ。
(お人柄の参考→京都撮影所の録音室から 注:よそのサイトです)
わかるような気もする。
北大路欣也の「隠密奉行朝比奈」はご覧になったことがおありだろうか。
大目付の朝比奈が勝手に諸国漫遊…じゃなくて諸国の不正をただしに旅に出てしまうので、その監視役として御小人目付の真鍋が追っかけていって、結局毎回珍道中になってしまう。
「朝比奈」という作品の魅力は半分くらいは真鍋の魅力である。(言い切り。)
最初は、旅する暴れん坊将軍か、若い水戸黄門か、と思っていたのだが、見ていくにつれ、これは朝比奈と真鍋のやりとり、もしくは真鍋の活躍、を楽しむ作品なのかもしれないなと思えてきた。
そのときはそこでおしまい。
ところが、素浪人花山大吉、のことを読んでいたら、ふと朝比奈を思いだした。
旦那と相方の珍道中。
その遺伝子は、こんなところにも受け継がれているのかもしれないな、と思った。
関係するよそのサイト:
日本映画の感想文「柳生武芸帳」
テレビのコンビについてちらっと言及。
ともえのお部屋
烏玉の智三さまのところ。時代劇目次から入るとばばーーんと絵が。じわじわと「あっ、焼津の半次?」ってな風味が広がります。連動して特集組んでくれてます。ありがとう。
1999.10.11までの判明分(年代順)
素浪人月影兵庫(第1シリーズ)
1965.10.19-1966.4.12 26話
火曜日 20:00-20:56
NET
モノクロ
脚本:結束信二(1)
監督:佐々木康(1)
原作:南條範夫
キャスト:月影兵庫/近衛十四郎、焼津の半次/品川隆二
特筆事項:1、2部。製作事業所は東映京都テレビプロダクション(「東映京都テレビ映画25年」による)。プロデューサーは上月信二と思われる。
素浪人月影兵庫(第2シリーズ)
1967.1.7-1968.12.28 104話
土曜日 20:00-20:56
NET
モノクロ
脚本:結束信二(1)
監督:佐々木康(1)
原作:南條範夫
キャスト:月影兵庫/近衛十四郎、焼津の半次/品川隆二
特筆事項:3-10部。製作事業所は東映京都テレビプロダクション(「東映京都テレビ映画25年」による)。
素浪人花山大吉
1969.1.4-1970.12.26 104話
土曜日 20:00-20:56
NET
1-13話モノクロ→14話以降カラー
脚本:森田新(1)
監督:小野登(1)
主題歌:「浪人まかり通る」歌:北島三郎
挿入歌(ED?):「風来坊笠」歌:品川隆二
キャスト:花山大吉/近衛十四郎、焼津の半次/品川隆二
特筆事項:製作事業所は東映京都テレビプロダクション。「「素浪人月影兵庫」の続編で、主人公の名前と特徴的な癖が変わった程度」、近衛・品川のコンビぶりもまったく同じのまゝ相変らず呑気で愉快な旅を続ける。」(「東映京都テレビ映画25年」による)
素浪人天下太平
1973.4.5-1973.9.27 26話
木曜日 20:00-20:55
NET
脚本:結束信二(1)
監督:荒井岱志(1)
キャスト:近衛十四郎、佐々木剛、加茂さくら
特筆事項:製作事業所は東映京都テレビプロダクション。
いただき勘兵衛旅を行く
1973.10.4-1974.3.21 24話
木曜日 20:00-20:55
NET
キャスト:近衛十四郎、目黒祐樹、江夏夕子
特筆事項:製作事業所は東映京都テレビプロダクション。
("素浪人"参考作品)
二人の素浪人
1972.9.2-1973.1.6 19話
土曜日 20:00-20:55
フジテレビ
脚本:池田一朗、田上雄(1)
監督:原田隆司(1)
キャスト:平幹二郎、浜畑賢吉
(ミフネの"素浪人")
荒野の素浪人
荒野の素浪人
人魚亭異聞・無法街の素浪人
参考文献・参考サイト
(番号は当サイト内で使用している統一の番号です。番号が飛んだりしているのは、そのためです。)
(1) QA 1990年7月号 [雑誌]
(17)蔵出し 絶品TV時代劇
(近藤ゆたか編、フィルムアート社刊 1997)[単行本]
(20)みんなのテレビ時代劇
(特集アスペクト40 アスペクト刊 1998)[単行本]
(21)東映京都テレビ映画25年(東映京都スタジオ1982)[冊子]
(25)実録テレビ時代劇史 ちゃんばらクロニクル 1953-1998(能村庸一著、東京新聞出版局刊 1998)[単行本]
Last modified: Sun Jan 16 10:29:21 2000