よくできたフィクションが史実のように思われていることというのは、新選組に限らず、時代劇ではよくあることです。ただ、講談や戦前のよく知られた話を元にした定番の時代劇や、忠臣蔵、信長・秀吉といった存在では、それに関して歴史的な研究が全く別の次元で進んでおり、「これはこう伝えられているがウソである」ということもまた、比較的広く知られています。ところが、新選組は、そのおはなしと史実を切り分けるというところまで、消化されていない存在のような気がします。
話としてはよくできているが、事実とは違う。
歴史家なら、事実はこうである、ということを掘り下げていくと思います。
が、ここは、時代劇、のサイトですから、事実とは違うかもしれない、ことは忘れずに頭におきながら、「話としてはよくできている」の方を見ていきましょう。
要するに、新選組を題材にした「芝居」について考える、ということです。
文久3年(1863)、将軍家が京に上る際の警護役として「浪士隊」(後に新徴組)が徴集され、京に上ります。しかしまもなく、幕府から江戸への帰還命令が出ます。
このときに、初心を貫こうと京都に残った13人。
このうちには、近藤勇、土方歳三、沖田総司ら、武州の天然理心流の道場(試衛館)のゆかりの人物と、水戸の芹沢鴨らがいました。彼らは京都守護職・松平容保に嘆願書を出し同志100名あまりを募って「新選組」を発足させます。
この当時の局長の筆頭は芹沢鴨。次に、近藤勇、新見錦。副長に土方歳三、山南敬助。
しかし、近藤派は、芹沢鴨を暗殺し、近藤・土方体制が生まれます。
新選組は、京・大阪の治安を乱す浪士らを殺す役目を担っていましたが、元治元年(1864)、池田屋に集まっていた倒幕派の浪士を倒した「池田屋ノ変」で名をあげます。
隊士も増え、人々から恐れられる存在となります。
また、新選組は局中法度という隊規をもっており、脱走、士道不覚悟といった理由で、自ら隊士たちを処刑するなど、厳しく律していました。
しかし、3年ほど後、徳川慶喜は大政奉還をおこないます。幕府軍が京都を去った後も新選組だけが伏見奉行所に留まります。
明治元年、鳥羽伏見の戦いで幕府軍は背走、新選組にも多数の死傷者が出ます。
その後も北上する幕府軍とともに戦いますが、近藤は処刑されます。土方に付き従った組が榎本武陽の軍に加わり戦ったのが新選組最後の戦いでした。
土方の戦死後、ほどなく五稜郭は降伏しました。
昭和36年、中村竹弥が近藤勇を演じた「新選組始末記」。中村竹弥は初主役だったそうです。写真で見る限りでは、すでに時代劇スターという雰囲気です。この原作は、昭和一桁の時代に書かれたものですが、それまで「人斬り集団」のような扱いをされていた新選組観を変えたと言われ、これ以後、映画でも新選組を主人公とした作品がつくられたそうです。ところが、テレビ史について書かれた文を見ると、このテレビ作品が新選組観を変えたように書かれています。本は本、映画は映画、テレビはテレビ、なのでしょうかね。
それまで、といえば、鞍馬天狗や月形半平太の敵役が頭に浮かびます。
その位置を逆転させたのが始末記だったわけです。
このときの主役は近藤勇。というかそれまでも新選組といえば近藤勇。(余談ですが、近藤勇の名前を「イサミ」と読むのだと明らかにしたのがほかでもない子母澤寛の「新選組始末記」だということです。)
さて、副長の土方歳三という男をクローズアップさせたのが、読み物としては「燃えよ剣」。そしてテレビでは「新選組血風録」(昭和40年)だそうな。血風録の原作は短編集で特に誰が主人公というものではないのですが、テレビでは、土方の語りが入り、土方の目から見た、という趣向が感じられました。(同じ作者の「燃えよ剣」での土方のイメージが投影されているのではないかと思います。)また、原作もそうですが、ひとつひとつのおはなしの面白さ、そこに生きている隊士たちひとりひとりの姿は、すでに伝説といっていいかもしれません。
その後、そのリメイク版…というと叱られそうですが、多くのメンバーをおなじうしたカラー作品の「燃えよ剣」(昭和45年)が作られます。これについては、血風録には及ばないという意見も耳にします。が、NET・東映の新選組としてセットで語られることの多い作品です。(なお「燃えよ剣」にはこれ以前に、経営難で建て直しにかかる直前の東京12チャンネル版があります。杉良太郎が沖田を演じていたそうです。)
おそらく、ここまでで、テレビ時代の新選組のイメージは出来上がったのではないでしょうか。さらに鶴田浩二が近藤を演じた「新選組」、草刈正雄が長髪の沖田を演じていた「新選組始末記」などが作られますが、近藤が主役か、土方が主役かということが問題なくらいで、イメージの大転換はおこなわれていないように思います。
それもそのはず、新選組の連続作品というのは、今手許で分かっているだけで9作品あるのですが、7作までが「新選組血風録」、「燃えよ剣」、「新選組始末記」を原作にとっています。異色といえるのはNHKの「壬生の恋歌」だと思いますが、それを除くと、すでに新選組の物語は安定に入っているような気さえします。新選組のイメージは昭和…それもテレビ時代に作られたと言えないでしょうか。
なお、単発作品では、新選組という組織ではなく個人にスポットを当てたものがいくつかありますが、剣に生きた男という視点で描いたものが多いように思われます。
沖田総司。ソウジと読みます。しかし、「オキタソウシ」という読み方になじんでいる方も多いでしょう。島田順司。血風録で沖田を演じた方です。ジュンシと読むそうです。「ソウシ」という役名の読み方は島田さんの名前にヒントを得たのだと言います。ほんとだとするとエライ話です。高々30年、いいえ、私の子供の頃にはもう「オキタソウシ」でしたから、せいぜい10年くらいの間に、オキタソウジがソウシになってしまったことになります。…実はちょっと疑ってます。(^_^;;)。
こんなにオキタソウシを有名にした「新選組血風録」。
栗塚旭。アサヒと読むそうです。それはさておき。彼は当サイトにおこしの若き暴れん坊将軍ファンにとっては、山田朝右衛門として親しまれているかと思いますが(なに?知らない?。知れ!)、彼の当たり役と言えば、用心棒、もそうだけど、血風録で演じた土方歳三にとどめを刺します。そんな若い頃からとどめを刺しちゃっているので、後が大変です。其の後2つのシリーズで、彼は土方という歴史上の人物を演じることになります。
その3作というのが、「新選組血風録」「燃えよ剣」そして鶴田浩二の「新選組」です。「新選組血風録」「燃えよ剣」のキャスト、プロデューサー、テレビ局、脚本、におびただしく同じ名前が見えるのは言うまでもないのですが、「新選組」の脚本も結束信二。芹沢鴨、斉藤一は血風録のキャストとくると、位置づけが違っているとはいえ、何も狙ってないと考える方が不自然でしょう。それほど「血風録」は決定版だったということでしょうか。
やや時代が新しくなりまして、松方弘樹の…というか、東山紀之の「新選組」(単発)。こないだ調べてて、「構成:結束信二」の文字にはくらっと来ました。当時そんなことは全く気にせずに、泥鰌と戯れるヒガシの沖田を見てたものですが、こんなところにも名前が…。(結束さんが亡くなったのは昭和62年の春のことだそうです。おそらく、この作品が、彼の手がけた最後の「新選組」でしょう。)
時は流れ…、1998年、美しくも(?)悲しいテレビ朝日木曜8時時代劇のラストを飾ったのが、東映・テレビ朝日による「新選組血風録」でした。
ある意味、注目はされていたのですが、ふたを開けると…えーーと。あまりエキサイトしませんでした。理由はよく分かりませんが、ビデオだったこともあるでしょうし、近藤が近藤らしくないぞという意見も聞かれました。
しかし、私には、この作品が、白黒の頃の「新選組血風録」の呪縛に敗れたような気がしてなりません。
村上弘明のナレーションが、耳の奥に聞こえてくると、彼は何になろうとしたんだろう、とふと考えてしまいます。彼は土方になろうとしてがんばっていたように思えます。でも、そこに自分が見たものは、栗塚旭の幻…だったような気もするのです。
1999.7までの判明分(年代順)
新選組メイン(連続)
新選組始末記
1961.10.17-1962.12.25 63話
火曜 21:30-
TBS
脚本(脚色):生田直親、太田久行、小松君郎ほか
演出:山本和夫
原作:子母澤寛
音楽:舟越隆司
キャスト:近藤勇/中村竹弥、土方歳三/戸浦六宏、沖田総司/明智十三郎、 芹沢鴨/金子信雄、清河八郎/緒形敏也(緒方俊也?)、お福/森光子、 平山五郎/湊優一、佐々木愛次郎/市川団子、草野剛三/天津敏、 原田左之助/山岡徹也、山南敬助/土屋嘉男、井上源三郎/橋口忠夫、 山崎烝/湊俊一、近藤周平/服部哲治、斎藤一/佐田周二、尾形俊太郎/大沢真吾、 阿比留栄之介/高田健二、松原忠司/黒川弥太郎、松平容保/外山高士、 永井玄蕃守/玉川伊佐男、滝川播磨守/浅野進治郎、志乃/二階堂有希子、 お孝/喜多川千鶴、ナレーター/芥川隆行
風雲新撰組 近藤勇
1961.4.3-1961.5.26
フジテレビ
キャスト:近藤勇/嵐寛寿郎、土方歳三/龍崎一郎、沖田総司/杉山弘太郎、芹澤鴨/並木一路、 坂本竜馬/沖竜次、桂小五郎/伊達正三郎、芸妓幾松/小畠絹子、西郷隆盛/舟橋元、炎弥十郎/高木二朗
特筆事項:この作品は再編集して映画としても上映されている。(コメント:のよりん様)
新選組血風録
1965.7.11-1966.1.2
NET
栗塚旭
詳しくは→司馬遼太郎原作の時代劇
燃えよ剣
1966.1.14-1966.4.2
東京12チャンネル
内田良平
詳しくは→司馬遼太郎原作の時代劇
燃えよ剣
1970.4.1-1970.9.23
NET
栗塚旭
詳しくは→司馬遼太郎原作の時代劇
新選組
1973.4.4-1973.9.27
木曜 20:00-20:55
企画:俊藤浩滋、池田利次
脚本:結束信二(全話)
演出:小沢茂弘、斎藤武市、佐伯 清、荒井岱志、松尾正武
音楽:渡辺岳夫
キャスト:近藤勇/鶴田浩二、土方歳三/栗塚旭、山南敬助/日下武史、沖田総司/有川博、 永倉新八/伊吹吾朗、斎藤一/左右田一平、山崎烝/山城新伍、藤堂平助/中山克巳(中山克己?)、 井上源三郎/田崎潤、原田左之助/河原崎長一郎、大石鍬次郎/待田京介、藤田精一郎/藤岡弘、 芹沢鴨/遠藤辰雄、新見錦/成田三樹夫、平山五郎/志賀勝、桑田源十郎/国一太郎、 武田観柳斉/菅貫太郎、島田魁/楠本健二、川島勝司/北十学(北十字学?)、河合耆三郎/北野拓也、 岸島吉太郎/山田良樹、野村佐兵衛/田村高廣、中村半三郎/島田順司、佐々木唯三郎/中丸忠雄、 浅井又兵衛/小田部通麿板倉伊賀守/岡田英次、桂小五郎/菅原文太、芸妓幾松/中村英子、 みつ/松尾嘉代、源助/北村英三、おえい/大川栄子、勘吉/田淵岩夫、おたか/光本幸子、 おうめ/伊吹友木子、おとき/三益愛子、ナレーター/森光子
特筆事項:新聞広告で山崎の名前が草かんむりのないものであったためそれに従った。
詳しい配役は「結束信二の世界」(WWWサイト)より引用したが、俳優名が既調査のものと異なるもの があるので「?」付きで示した。
新選組始末記
1977.4.7-1977.9.29
TBS
脚本:童門冬二
演出:山本和夫
原作:子母沢寛(新選組始末記)
音楽:船越隆司
キャスト:近藤勇/平幹二朗、土方歳三/古谷一行、沖田総司/草刈正雄、 芹沢鴨/高松英郎、新見錦/睦五郎、山崎蒸(山崎烝)/林与一、 原田左之助/新田昌玄、伊東甲子太郎/戸浦六宏、藤堂平助/三ツ木清隆、 宮部鼎蔵/水島道太郎、山南敬助/高橋長英、永倉新八/夏八木勲、 清河八郎/中谷一郎、松原忠司/中山仁、河合耆三郎/江木俊夫、 おすみ/竹下景子、深雪太夫/小川知子、八木源之丞/嵯峨善兵、 ナレーター/芥川隆行
壬生の恋歌
1983.4.20-1983.10.26
NHK
三田村邦彦
詳しくは→NHK水曜・金曜時代劇
新選組血風録
1998.10.8-1998.12.30 10話
テレビ朝日
村上弘明
詳しくは→司馬遼太郎原作の時代劇
新選組メイン(単発)
時代劇スペシャル 沖田総司・華麗なる暗殺者
1982
近藤勇/佐藤充、土方歳三/柴俊夫、沖田総司/郷ひろみ、芹沢鴨/待田京介
燃えている炎の剣士 沖田総司
1984
近藤勇/若林豪、土方歳三/柴田恭兵、沖田総司/田原俊彦
新選組
1987.10.1、1987.10.8 2話
I 沖田総司 愛と青春の時、池田屋前夜、恋に生き・剣に生き、幕末青春群像
1987.10.1 20:00-21:48
II 池田屋襲撃 祇園囃子が風にのる、動乱の京都、散り行く男たちの挽歌
1987.10.8
脚本:高田宏治
監督:原田雄一(I)、舛田利雄(II)
構成:結束信二
原作:子母沢寛(新選組始末記)
主題歌:飛鳥涼「MY Mr. LONELY HEART」
キャスト:近藤勇/松方弘樹、土方歳三/竹脇無我、沖田総司/東山紀之、芹沢鴨/地井武男 、斎藤一/宮内洋
特筆事項:IIの方に飛鳥涼が出ている。
燃えよ剣
1990/01/05,1990.1.6
テレビ東京
役所広司
詳しくは→司馬遼太郎原作の時代劇
新選組 池田屋の決闘
1992
近藤勇/里見浩太朗、土方歳三/地井武男、沖田総司/野村宏伸
新選組メイン(オムニバスのうちの1本または1シリーズ)
日本歴史シリーズ
幕末物語
近藤勇と桂小五郎篇
1960.2.19-1960.4.8 8話
監督:小野登
キャスト:近藤勇/小柴幹治、波多野博、円山栄子、岩田直二
特筆事項:なお日本歴史シリーズの放映期間は1959.5.8-1960.4.8 36話。
このうち最初の14話が「大楠公」、のこりが「幕末物語」で幕末…は4シリーズある。
剣
1968
近藤勇/島田正吾、山崎蒸/最上竜二朗
日本剣豪伝
1968
近藤勇/中村竹弥、沖田総司/梅宮辰夫、山南敬助/東千代之介、伊東甲子太郎/ 明智十三郎
日本剣客伝
1968
土方歳三/寺島達夫
剣豪
1970.1.5-3.30?
「新選組のイイ男」1970.2.2-
近藤勇/仲谷昇、斎藤一/中山仁
特筆事項:オムニバスのうちの1シリーズらしい。
参考文献・参考サイト
(番号は当サイト内で使用している統一の番号です。番号が飛んだりしているのは、そのためです。)
(1) QA 1990年7月号 [雑誌]
(2) アサヒグラフ増刊 3.15(昭和53年 朝日新聞社)[雑誌]
(3) 季刊テレビジョンドラマ [雑誌]
(8)東映テレビ制作部[WWW]
(17)蔵出し 絶品TV時代劇
(近藤ゆたか編、フィルムアート社刊 1997)[単行本]
(20)みんなのテレビ時代劇
(特集アスペクト40 アスペクト刊 1998)[単行本]
(21)東映京都テレビ映画25年(東映京都スタジオ1982)[冊子]
(25)実録テレビ時代劇史 ちゃんばらクロニクル 1953-1998(能村庸一著、東京新聞出版局刊 1998)[単行本]
(未採番)結束信二の世界[WWW]
(未採番)配役宝典 準備版VI [同人誌?]
なお、新選組関連のキャストデータをのよりん様よりメールでいただきました。
Last modified: Sun Nov 7 10:18:21 1999