歌舞伎ぜんぶ入りサビ抜き小狐礼三

国立劇場  観劇日:2002/1/14, 19, 20
通し狂言 小春穏沖津白浪
小狐礼三/菊五郎、船玉お才/時蔵、日本駄右衛門/富十郎、
三浦屋深雪・月本円秋/田之助、奴弓平/正之助、月本数馬之助/信二郎、三浦屋花月/菊之助
礼三子分友平/亀寿、同宿天錦 松也、花田六之進/亀鶴、捕手頭片瀬藤内/由次郎、飛脚早助・三浦屋遣手お爪/松助、三上一学/團蔵、番頭新造花川/萬次郎、荒木左門之助・猟師牙蔵/彦三郎

なんで3回も見てるんだか…だが、20日に立ち回りの手が変わっていて驚いた。
あれだけ趣向に富んだタテをまだ変える。
すっきり、わかりやすく、派手に、歌舞伎らしいところをわんさと盛り込んだ芝居。
時代あり、世話あり、だんまり、ケレン、六法、タテ。
殿様、実悪、赤姫、傾城、白浪、女装、狐。
舞台機構も、小道具も衣装も楽しめる。
ただし愁嘆場はない(抜いてある)。特に「因果だなあ」と嘆くこともなく進んでゆく。ねる暇なし。
たまたま、歌舞伎をはじめて見るという人を誘ったのだが、歌舞伎紹介編としては大正解。
ばかばかしく中身は空っぽかもしれないが、正月だからまあいいかー、と、ぱーっと楽しむのがよい芝居でしょう。
富十郎さんの病気治っておめでとう。
あまり…全然出ない芝居なので、一応筋も追いながら…。追いながら…追いすぎだよ…長くてごめん(T_T)。

序幕

主役の三盗賊は登場しない。
派手な山門。役目で法要参拝の若殿・月本数馬之助(信二郎)。時代物風に家来勢揃い。
腹に一物ある家来・三上一学(團蔵)と、若い六之進(亀鶴)の反目がひととおり繰り広げられる。亀鶴は忠義心あふれるまっすぐな若侍でよろしいが、この後出てこないのでもったいない。團蔵は歌舞伎というよりテレビ時代劇の悪役のよう。台詞にもっと時代味があってもよいと思う。
そこへ、傾城花月が数馬と逢い引きにやってくる。花月様ご一行はすっかり御殿女中とお姫様の花見というこしらえだが、座り方や振る舞いが廓風、という芝居を菊之助がなかなかよくやっている。姿も美しく、やっと調子が戻ったのかもしれない。女形さんが沢山で華やか。禿の弥生ちゃん、達者な子役です。
花川役の萬次郎は上機嫌。首尾よく数馬と花月を茶屋に、自分は奴弓平の手を取って、いそいそと。弓平(正之助)が照れて一応拒んでみたりするしぐさがかわいい。この兄弟役者、当月快調。
だが、大事な役目の最中に女と会っていて、しかも胡蝶の香合が紛失。引責をせまられる数馬。おろおろ。そこいくと花月は強い。「立つわいな」と家来の手をはねのける。若々しい力がある。秋頃、鳴神の絶間姫をやったときには、このはっきりした女性という雰囲気が少し邪魔だったが、今回の花月は、なにしろほとんど誰もやったことがない役なので、こういう人なんだろうとしか思いようがない。私が食わせてあげるわとばかりに、数馬の手を引いて逐電。
この後、ふところの香合をタネにお家を乗っ取る計画を独白する三上一学。聞いていた弓平。…って、こんな時代劇な展開でいいのか???三上一学と弓平が丁々発止のあと互いに決まって幕となる。
おきまりの重宝紛失劇にて芝居の始まりである。ところで、やたら出てきた「いやなに」って接続詞はいったいなんだろう。

二幕

足柄山中。雪。舞台に雪幕。花道にも雪布。
#ここの後見は初日近くは雪衣だったそうだが、黒衣に変わったそうだ。雪衣だと客がわらうそうな。見えちゃうんだね。黒いと見えないことになってるから見えない。雪衣だって見えないんだって鑑賞教室で説明しないとダメだね。(^_^;;)
三上一学の家来の飛脚(松助)が道に迷っている。迷子捜しの村人に道を聞くが、それとは反対の方へ行きたがる。「新幹線も止まっているから小田原へは行かれねえよお」と菊十郎。#現実世界では、月初めに大雪が降ったのです。
この辺客席まで使って松助のワンマンショー。場を1人でもたせられる便利な人です。そして狐登場。娘に化け(…たらしい)、飛脚とじゃれあって、胡蝶の香合を奪い去る。(20日は、狐がくるんと回れ右したら香合を落っことして
いた。ははは。)
幕が落ちると雪の中の一軒家。弁天小僧やお嬢と同様の黒い振り袖姿の娘…娘っていうか…年齢不詳の娘姿の人…が、しおらしく、糸を紡いでいる。手に息を吐きかけたりしながら。菊五郎である。一方花道を、修験者風の男。時蔵の立ち役はいつでも男だか女だかわからんので、説得力があるのやらないのやら。
原作では、この場面は熊野比丘尼だそうだ。私は、それでもよいのではないかと思う。女と女に見せかけておいて実は片方が男、のほうがどきどきしないかしら。
花道と家での割台詞の後、ともかく家に修験者を引き入れ、話をしている内、狐が銜えていた香合を鉄砲の音に驚いて落としていったという話に及び、修験者が香合を取り出すと、外からなぜか猟師が。…わからん展開だ。そこで猟師と修験者が香合の取り合い。娘はすっと狐の手つき。すると香合がそちらに引かれる。妖術だ。だが、腕の彫り物で修験者に男と見抜かれる。パターンだ。女装趣味なら彫り物なんかするなよ。
と思うと白煙。娘は壁に吸い込まれる。男とばれたらあっという間だ。もうちょっとオトコオンナぶりを見せてくれるかと思ったのに。
場面は転換して、月のススキ野原へ。ここから日本駄右衛門が加わって売り物の「雪月花のだんまり」となる。ちなみに私は最初のとき、これが「雪月花」の「月」だと気づきませんでしたっ。菊五郎の礼三は、菊百日の鬘に四天で児雷也のよう。ふふふふふ。いいぞ菊五郎。ここの菊五郎がいちばん男前。
両手を前に狐の妖術の手つき。皆が取り合っている香合がすーっと宙をとび礼三の手に。
この後礼三がとびこんだ駕籠をつるして上げてゆき、猟師の鉄砲を合図に空中解体、役者はいない。次の瞬間には消えたはずの礼三がすっぽんから上がってくる、というトリック。これが Mr.マリックの技術協力ってやつか。(さすがに1回目はタネがわからずびっくりしました。)さらに、妖術で、一瞬にして桜満開の景色へ。皆それぞれに別の姿を現す。渡辺保センセーは、ここの説明的割台詞がお嫌だったようだが、私は別に気にならなかった。
最後は菊五郎が花道を途中まで六法で、中途から板にのってすーっと引っ込み。
(スケボーに姿勢を低くして乗った様子をご想像下さい。)
場面転換、装置大活用で、歌舞伎を感じさせたまま、「変わる」ことの醍醐味を見せた「力作」な場になった。
だが、この場は、間違えれば、例の「源氏物語」の暗転になりかねない。同じ時間や場所を表と裏で見ているという連関を感じさせず、まったく別の次元にぱらぱらと変わる転換の仕方である。
菊五郎自身の変身もそうだ。あれが同一人物とわかるだろうか。たとえば、お嬢さん装束のまま男になる弁天小僧は見事だ。姉さんかむりを取るだけで男になった都鳥の花子(実は松若丸)も見事だった。
煙で、しゅーーー、なんてやらずに、どうにかしてその場でぶっかえってほしかった。ムリでしょうか?

三幕

廓・三浦屋の前。大晦日。夕方頃だろか。
序幕では実悪かと見えた三上一学が、色悪…というよりはただのイヤな侍になって再登場。團蔵には、こっちの方が合ってる。花月をものにすべく、中へ。
そして、いい男と評判の八重垣(菊五郎)が花魁道中の一連を引き連れて花道からやってくる。田之助さん久々の花魁は深雪太夫。この太夫は頭痛持ちで、店の前で嘆いていると、おまじない屋さん「地蔵尊の御夢想」が通りかかる。おこそ頭巾の中は時蔵。あとでまた来るといいながら、菊五郎の顔をちらと見る。
菊五郎の方も、誰だったか、と思いかけて、おぅ、と膝を叩く。言うまでもなく、足柄山中で香合をとりあった二人である。
舞台回って、三浦屋の二階、花月の部屋。
花月は一学を袖にしどおしだが、結局踏み込まれて数馬が見つかってしまう。これ、さっきもじゃないか。情けないぞ数馬。もっと上手くやれ。
揚げ代を払えずに二階を止められた数馬と客を断った花月が一緒にいるというのは許されない。花月は頑張って突っ張るけれどもお金はないのだ。揚げ代を払えと詰め寄るやり手のお爪(松助)。いいぞ、ばあさん。その様子を戸の外
でうかがっているのは、深雪太夫。
深雪の差し金で、花月の部屋に大晦日恒例の狐舞がなだれ込む。揚げ代も深雪が払い、一学さんはくちをとんがらかして退場。ここの團蔵は、ちょっと田舎芝居くさい。
面をとると狐舞は実は菊五郎。(気づかなかったよ。)ついたての後ろでナマ着替えして、男伊達っぽく変身。世話なので、しゃべりながら着替えて姿を変える。このあたり別に感心する場でもないのだが、姿が変わるのはやはり面白い。場にいた連中と八重垣さんたら鎌倉(=江戸)で生まれ育った人よりいい男ねえ、みたいな世間話になる。こんな芝居でもわざわざ鎌倉にしてるところ
がおかしい。菊五郎、この辺ではふつうの神妙ないい男。おまじない屋が戻ってきたというので、部屋に上げると、持っていた包みは生
首。せっかくおまじないのために人を殺して持ってきたのに、ばれたら磔獄門なのに、ただでは帰れない、てな感じで脅しにかかるまじない屋。わけがわからんと言われがちな場面だが、結構理屈は通っている。(が、この首は、実は拾った首なのだ。ふつう首は落ちてないって。)
おまじない屋は、実は舟玉お才という女盗賊。頭巾をとると悪婆である。黙阿弥流の七五調で名乗る。
その代金百両を八重垣がポンと払うので、お才は機嫌良く帰る。歩き方がすこしだらしなく悪婆になっております。
深雪と二人になると、八重垣は用事があると行って出てゆこうとする。だが、深雪は、あのゆすりを追いかけるのだろう、と言い当てる。ここは男女の綾が面白い場面。八重垣が実は自分は小狐礼三という盗賊だと名乗り、さすがに盗賊とわかったら女房になる気はないだろう、と言うと、深雪ははなから知っていて夫婦約束までしたというのだ。礼三「ハテ物好きな女だなあ」となる。
まったくそのとおりの妙な女だ。なんとなく男が戻って来たくなるような女ではなかろうか。ただの姉御肌の女房ではなく、懐が深く、信頼でき、一人でも生きてゆける大きな女、と見えるのは、田之助ゆえだろう。なにしろ、この芝居の中でどういう人間かわかりそうなのはこの人だけである。
場が変わって、川端へ。時刻はもうすぐ廓のひけである。
ほろよい加減のお才が花道から出てくる。夜道。時蔵がよい感じにくずれていてかわいい。
ふと自分がまだ生首を持っていたのに気づいて、川へ「水葬」と流してやる。
南無阿弥陀仏、と片手拝みにするその声も子供っぽく鼻にかかって機嫌がよさそう。
ここで、お才はこの首を地蔵尊のところで拾ったのだと言っている。
なんでそんなものが落ちてるんだよー。だがこの場は都合のよい話オンパレードで、この先まだまだ続く。
上手から礼三が現れ、まじなってほしい、まじない用の首は流してしまった、ほしいのはその首じゃなくお前の首だ、のやりとり。面白い。
実はさっきの百両は盗んだ刻印金で触れが出ているため使えないのだ。聞いたお才は愕然。
で、刀を抜いて命のやりとりを始める二人。使えない金をつかまされたお才が怒るのはわかるけど、礼三はなんでわざわざ追っかけてきたのだろう??
なことをやってるうちに、富十郎の日本駄右衛門が止めに入る。
三人吉三の大川端そっくりの展開になるわけだ。
さあ、ここから菊五郎劇団の復活ものお得意のジェットコースター歌舞伎。
駄右衛門は、実はさっきのやりとりを三浦屋の深雪の姉女郎越路の部屋で聞いていたという。できすぎだ。
七五調で名乗り合い至極簡単に義兄弟になる三人。あんたたちさっき殺し合ってなかったか?
さらに、駄右衛門は主筋にあたる月本家の紛失した重宝「胡蝶の香合」を探していたのだ。
じゃじゃーん。覚えてますか。その香合は雪月花のところで礼三が手に入れていた。
懐から「もしや」と取り出す。おおおお、これぞまさしくー。(涙出そうなくらい都合いい。)
礼三の子分(亀三郎)が、だだっと登場。花月が一学にさらわれた、と注進。
しかし助け船。なんとなんと、お才は前に一学と仲間で、隠れ家を知っているという。こんな都合いい話があっていいのかーー。黙阿弥恐るべし。
だがその三人を目指して捕り方が回った。(…なんでばれた???)
お才と礼三は花月を助けに、駄右衛門は一刻も早く香合を月本家へ、落ち合う先は稲村ヶ崎、と別れてゆく。

大詰

枯れ野原のようなところで、遠くに鳥居が見える。礼三達を追って捕り方が散ってゆく。
花道。駕籠が来る。後ろから、袴もなし、尻っぱしょりで駕籠を追っかけてくる三上一学。…どんどん格が下がっててコミカル。駕籠はどうやら狐に化かされているらしい。方向が違うから引き返せなどといってると、どろどろどろ、となって狐火が飛ぶ。
(普通の人魂より一回り大きなものを使っているようだ。)
腰を抜かした一学をあざわらって、上手草むらの影から礼三登場。
狐忠信風の鬘になっている。
実は裏切っちゃったのよーん、と下手からお才も登場。考えようによってはひどい女だねえ。
礼三はちゃんちゃんばらばらで、一学を倒す。お才は駕籠から花月を助け出し、手を引いて花道へ退場。
場が変わって、鳥居の連なる佐助稲荷。鳥居は書き割りでなく、くぐったり上ったりできるようになっている。ここから劇団精鋭によるタテの祭典。
まず鳥居の裏側のトランポリンを使って狐が宙高く跳んでいる。
そこへ捕り方がだだだだだ。鳥居の足をくるりくるりとすり抜けて礼三。様々に立ち回り。とんぼ、飛び越し、鳥居をはしご代わりに使っての追い込み。
(神道の人に怒られないか?)
神社の鈴の五色の紐を捕り縄のように使って(小金吾の召し捕りなどをご想像あれ)みたり、人間ピラミッド…じゃないけどいろいろ組んでみたり。頭を絞りに絞ったタテが、菊五郎劇団の三階さん+α(時代劇の俳優さんが応援)で繰り広げられる。タテ師は菊十郎、橘太郎。所作のようではなく、かなりテンポの速いタテでめまぐるしい。諸所で礼三(菊五郎)の見得。ほれぼれ。菊五郎、還暦とは思えません。よーやる。最後に礼三は鳥居に上り、鳥居の上でも立ち回りあって、捕り方の返り落ち等。礼三、尻を落として足を投げ出し、見得。(←……ここが痛いらしい。後の方では、立って見得に変わったらしい)なぜか再び後ろで狐がトランポリンで跳んでいる。
菊五郎を乗せたまま鳥居ががーっと回って暗転…だったか。とにかく客が興奮してる間に次へ。
稲村ヶ崎。夜明け前の海辺。花道は浪布。
下手に舟が用意され、駄右衛門が舞台中央の岩の上で待っている。
お才は花月を連れてくる。一刻も早く香合を月本円秋公の元へと駄右衛門がはやると、なんとそこへ、礼三が円秋(田之助)を連れてやってくる。つ、つ、つ、都合がいいぞ、バンザイ。
というわけでひとまずお家転覆を謀った悪人も成敗され、重宝ももどりめでたし。
駄右衛門、礼三、お才は、それぞれに一旦見逃されて、礼三・お才は舟で、駄
右衛門は陸路、落ちてゆくことになる。
新春恒例の手ぬぐい捲きがあって、折しも、大きな初日がのぼるのをバックに(笑える)、船出でお開き。
12時開始の15:40終了くらい。疲れないほどよい長さでよし


ここまで菊五郎劇団の復活ものをいくつか見てきて、いつも、どうもいまひとつぬるい、と思っていたところが、見事に刈り上げられて、きびきびとテンポよく気持ちのいい芝居になったと思う。
軽すぎるし、都合よすぎてばかばかしいが、それはそれで楽しい。
配役にしても、なんと適材適所に納まっていることか。
特に彦三郎、萬次郎、正之助の兄弟がこれほど持ち味を出している芝居はそうないのでは。
大役のはずの團蔵は調子が出ていなくて残念。
演劇界のインタビューを読むと、菊五郎は9月に資料を読み出し、南座(12月)に鳴り物と三味線を呼び出して音楽を合わせた、という。だが、稽古はいつもどおり。
新しい芝居だから、やってるうちに変わってくる。立ち回りにしても一日ですぱっと手を変える。それが破綻しないところに劇団の底力を感じる。
菊五郎はこの芝居の数々の趣向を自分の頭の引き出しの虫干しだという。
菊五郎を写した芝居と思えば、確かにそのように思えてくる。

14日はその後歌舞伎座で文七元結を幕見。
玉三郎、不調。あんな心のこもらない、抑揚ゼロの角海老女将がいてたまるか。
吉右衛門は初日の中継よりは向上。宗之助のお久はいつもより上手。
その前にアリスでだべっていて、私は別の演目もちょっとみたいなーと思っていたのだが、Tさんに「まだ言ってるの?」、Nさんに「---ぴーー--- の踊りなんか見たくないよ」と一蹴される。ぽりぽり。
そんなに嫌いだったとは。

以下、小狐について妹の掲示板への書き込み。
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
全体的に場面転換が早く、飽きずに見られました。
あの劇場の機構ならではなのでしょうね。
ちなみに雪月花のだんまり、
最初に見たときには雪と花はわかったけど、
月にはぜんぜん気づきませんでした、あの場面が「月」だということに。
台詞から察すると月の場面に変わるのも一応妖術なのね……。
花道を引っ込む礼三のスケボー(ちがう)とか、大詰め幕切れのところの船とか、
いろいろな道具が満載だし、芝居全体が「歌舞伎って面白いんだぜ」と
自己主張しているようでした。
筋は、日本駄右衛門が出てきたところで
「は?」、「え? 廓で聞いてた?」、
「おい、いきなり義兄弟かい?!(←これは三人吉三のときも思う。)」
「へ? 若殿と関係が?! はぁ? 
 ええっ、みんなイイモンになっちゃうのかい、おいおいおい、どこいくんだー」
(幕)
****そしてわけが分からないまま怒濤の立ち回りーーーー****
やんややんやーー………まあいいか。
これがね、二人新兵衛のときもやっぱり
***しんみりムード→いきなり「その金は」と出てくる産毛の金ちゃん***そして怒濤の立ち回りー
天一坊のときも
***切腹ムード→いきなり帰ってくる池田大助→やれ助かったなんとか大明神ーー
てな感じで、とにかく耐えて耐えてもう限界ーーなところへどんでん返し男が
突然登場して、ひっくりかえして、大騒ぎしてとりあえず収拾、というパターンで、
途中眠かったのをいきなり起こされてわけがわからんうちに終わった、
…と言えなくもないんですね。
今回は、これといって涙を誘う場がなく、ぱっぱぱっぱと進んだので、
割と「唐突感」は薄められたように思います。
他愛ない話だけどお正月だからいいかー的な受け取られ方をしたのでは?
となりに座っていた老夫婦のだんなさんのほうが
最初プログラムで筋書きを追っていたのですが、途中で
「わけがわからんから読まない!」と宣言してました。
…いや、説明できるような話じゃないって。
役者さんのこと。
正之助さん。序幕で花道にいるとき、座っているので、姿が見えない。
声だけが朗々と響いてくる。←実はこの芝居の最初の不思議は私にとってはこれだった。
この奴さんの役、よかったですね。
萬次郎さんの新造さん、ごきげんで楽しい。
亀鶴さんの忠義心にあふれるまっすぐな若衆。こういう役は合うように思います。
菊之助ちゃんの花魁は、さっきも書いたけど、かわいらしくいじらしく、女形の調子に戻ってきたと思います。
菊五郎さんは……、あのー、礼三はなんで女の格好で暮らしてるんでしょう?
ものすごくナゾですが、いつもながら有無を言わせない変身ぶり。
いろいろ変わりますが、私は、児雷也風のつくりのだんまりのところの礼三が
かなり気に入り。狐の妖術のポーズもきまって素敵です。
あと、立ち回りもたっぷり。最後、鳥居の上で脱ぐし。
とりあえず、菊五郎ショーを堪能。
(誉めまくりましたが、いいんじゃないでしょうか。正月だから。)
捕り方の皆さんも毎日毎日お疲れさまです。飛ぶ飛ぶ。回る回る。走る走る。
ただ斬り結ぶだけでなく上下左右いっぱい使った立ち回りで、壮観です。
田之助さん。盗人と知りながら女房になろうという深雪花魁。
多分、男の人が、ふと、旅先で思い出すような、帰りたくなるような、そういう女なのでしょう。
で、実は円秋公で……しつこいですか。はい。
時蔵さん。修行者が女とわかるところにもっと派手に見せ場があるとよかったなあ。
お才さんは、伝法ですが、ほろよいな歩き方とか、
首をずっと持ってたと気づいて「水葬」しちゃうところはかわいい。
とてもカッコイイねえさんなので、お才主役でなにか見たいですね。
富十郎さんは、すっかり回復されてよかったです。


余談:衣装はここで作ったそうだ。→http://www.asahi-net.or.jp/~tj8t-itu/index.html